今日は航海カヌーのミニチュアのご紹介です。
製作地は東ソロモン諸島のタウマコ島Taumako Island。ポリネシア航海協会が最初にスカウトしようとした伝統航海士であるテヴァケ師の住んでおられた島です。この島はいわゆるポリネシアン・トライアングルからは外れていて、地理的にはメラネシアになるのですが、文化的にはポリネシアの影響が濃いのだそうです。だからこそポリネシア航海協会は、ポリネシア式の伝統航海術をこの島から移植しようと試みたのでしょう。
さて、そのタウマコ島。名著「We, the Navigators」を著したデヴィッド・ルイスがフィールド調査を行ったのが1968年からの数年間*1でした。この時ルイスはテヴァケ師をインフォーマントとして伝統航海術に関する様々な情報を得たのですが、この技術はテヴァケ師の神話的な死*2とともに消滅し、オリジナルのポリネシア式伝統航海術は失われたと考えられていました。少なくともベン・フィニーらはそう考えています。
ところが、ルイスとそのアシスタントを務めた人類学者ミミ・ジョージによれば、テヴァケ師の死によってタウマコ島の伝統航海術が全て失われたわけではないらしいんです。そして、1996年、ジョージ博士は一つのプロジェクトを開始します。名付けて「タウマコのカヌーVaka Taumako」プロジェクト。
タウマコ島の大酋長であり伝統航海士であるコロソ・カヴェイア師Koloso Kaveiaと協力し、この島の航海カヌー文化を記録して後世に残そうという一大プロジェクトです。
ヴァカ・タウマコ・プロジェクトの公式ウェブサイトには1997年に進水した「ヴァカ・タウマコ」号の画像も沢山ありますよ。この海域の航海カヌーはまた独特な形状で、もっと東の方のポリネシアン・トライアングルのようなダブルカヌーでもなく、北のカロリン諸島やマーシャル諸島のような大型のシングル・アウトリガー・カヌーでもない。シングル・アウトリガーなのですが、船体はさほど大きくは無く、船体とアウトリガーの間にデッキを張ってその上に船室を設けた形態です。もしかしたら、この形態がポリネシア式航海カヌーとしては一番古いもので、これがさらに東に行くとアウトリガーが船体へと進化してダブルカヌーになったのかもしれません。
そんなヴァカ・タウマコ・プロジェクト、やはりお金が無いんでしょうね。タウマコ島で作られた航海カヌーの模型を売りに出しています。一番高いのは2500ドルだから現地価格で30万円くらいでしょうか。全長2mの模型です。
お大尽が個人で買うもよし。博物館の展示品としてもこれは極めてお買い得だと思うんですが、いかがでしょう? 京都大学博物館あたりで買わないかな?
*1 余談ですがルイスは1960年代半ば、現代のカタマランでではありますが、ポリネシア式航法術によってタヒチからアオテアロアまでの航海も行っています。1985年のホクレアの航海の往路は、伝統的なポリネシア式ダブルカヌーを用いたという点でルイスの実験航海に更なる上積みを付け加えたと言えるでしょう。
*2 自らの死期を悟ったテヴァケ師は、最後の時を海で迎える為にカヌーで洋上に漕ぎ出し、そのまま戻らなかったとされています。