大家と大御所

 ケント・ステート大(オハイオ州)のリチャード・ファインバーグ教授による、ベン・フィニーの「Sailing in the wake of ancestors」の書評が最近出ました。なんか本が出てから結構時間経ってるんだけど・・・。

Pacific Islands Development Program
The Pacific Islands Development Program serves the Pacific through innovative capacity building, interchange among regio...

 リチャード・ファインバーグ教授はベン・フィニーと並ぶ伝統航海術研究の重鎮です。ベン・フィニーはハワイが中心でしたが、ファインバーグはミクロネシアやメラネシアがフィールドですね。同じ論文集に寄稿していたり、同じ学会で活動していたりするので、間違いなく二人は知り合いでしょう。

 さて、ファインバーグによる書評ですが、面白かったのは「結局この本は研究者向けではなく、一般の読者向けに書かれているのだけれども、旅行者が気軽に読むには情報量が多すぎるし、先住民問題の運動家はもっと自分たちの肩を持って書いてある本を期待するだろう。とするとこの本の想定している読者がよくわからない。」と突っ込んでいる事。

 ファインバーグが指摘しているように、伝統航海術そのものやカヌーについての情報ならばもっと詳しい本があるわけで、この本の眼目は1995年のマルケサス・ハワイ間集団航海のドキュメントなんですが、それならもっと人間ドラマだけに焦点を当てて手に汗握るものを書けたのではないか(例えばウィル・カイセルカの「An Ocean in mind」のような)という不満も出るのかもしれません。

 私自身は、研究者用や旅行者用というよりも、航海カヌー文化復興運動をテーマに勉強したい学部生あるいは社会人向けの入門書として考えると、この本の位置づけが一番すっきりすると思っています。1995年までの運動の流れがマイロン・トンプソンという人物の人生に重ね合わされる形でまとめてありますし、用語索引や文献一覧も充実していますから、ここから入って勉強を進めていくには最適でしょう。こういうフィールドを扱う上ではポルトコロニアル・ウィルスを退治するワクチンプログラムを仕込んでおくステップが欠かせませんが(でないと軽佻浮薄な輩から鬼の首を取ったように大喜びで叩かれかねないので)、ベン・フィニーは自らの経験から説き起こして、ポルトコロニアルの限界についてもきちんと議論しています。

 こういう本の邦訳が出れば、航海カヌー文化復興運動について、また別の方面から興味を持ってくれる層も出来てくると思うんですがね。実は一度、この本の翻訳出版権について調べてみたことがあるんですが、ビショップ・ミュージアム・プレスは「ええっと・・・・翻訳出版権・・・・なんですかそれ?」という対応でした。どこに話を持っていけば良いのか(誰が権利を持っていて誰が管理しているのか)もわからなかったです。のどかというかなんというかねえ。

 この本のあらすじ、私がまとめたものもあるので、よろしければ読んでみて下さい。

サービス終了のお知らせ