Brendan’s Voyage

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 以前紹介した「Brendan's Voyage」のペーパーバックが届きました。

http://blogs.yahoo.co.jp/hokulea2006/670702.html?p=&t=2

 しかし、ここ数日忙しくてあまりこういったものを読む時間が取れない。忸怩たるものがありますが、実は今日は他にも面白そうな本が何冊か入荷していまして、これはちょっと腰を据えて読む時間を作らないといけないですな。

 というわけで、「Brendan's Voyage」、まずは写真で、革船「ブレンダン」号を確認。これは小さいです。ホクレアより明らかに小さい。いわゆるディンギーくらいの大きさしかありません。フレームは角材ですがキールは無いですね。マストは2本でケルト十字(十字架に円を足したもの。画像見てね)を描いた四角帆が装備されています。船の上面はスプレーカバーに覆われていますが、これが無かったらあっという間に水が入って沈んでしまうんでしょうね。

 話が始まる最初の部分を少し訳出してみましょう。

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「聖ブレンダンのお話はちょっと変だと思うの。」

 ある晩、妻のドロシーがそう言い出した。彼女のこの何気ない一言は、私の興味を強く惹いた。

「どうしてそう思うんだい?」

 私は妻に先を促した。

「だって聖ブレンダンのお話は、同じ時代に書かれた他のお話にあまり似ていないじゃない。読んでいて全然別の感触があると思うし。それがすごく気になるのよ。例えば、そうね、これは聖人が航海するお話なんだから、普通は聖人が起こした奇跡のエピソードが次から次へと出てくるはずでしょ。なのに、聖ブレンダンは奇跡なんか一つも起こさない。ただ彼は常人離れした洞察力を持っているだけ。ほとんど念視みたいなレベルのね。彼は航海の間、今何が起こっているのか、これから何が起こるのかを、びっくりするくらい正確に把握していくじゃない。他の船員たちがどんなに混乱していてもね。もちろん、航海が成功する事で彼は神への信仰をさらに絶対的なものにするわけだけどね。」
 
 私はさらに妻に尋ねた。

「他にはどんな所が不思議だと思う?」

「そうね。あとは・・・このお話は、細かいディテールがとても実際的だと思う。中世に書かれたお話って、普通はもっと浮世離れしてるじゃない。でも聖ブレンダンのお話は、彼が訪れた土地の地誌をきちんと記録してるでしょ。航海が進んでいく様子も逐一記録されてる。いつ、どれだけ移動したのかをね。他にも色々あるけど。もしかしたら、聖ブレンダンのお話は単なる伝説じゃなくて、実際にあったお話を脚色したものなんじゃないのかなって思う。」

 妻のこの指摘は、傾聴に値するものだった。彼女は中世スペイン文学の専門家で、中世の文書には精通していた。そもそも我々が出会ったのは、ハーヴァード大学の図書館のなかで、お互いに資料を探しに来ていた所だったのだ。彼女は博士論文を執筆している最中で、私は冒険家として活動を始めたばかりの頃だった。そして、我々はお互い学部生の頃から、それぞれの立場で聖ブレンダンの伝説に興味を持っていた。「聖ブレンダンの伝説は冒険譚の研究者泣かせだよ。」そう私は指摘した。「彼の伝説が真実なのか空想なのか、誰も確信を持てないんだ。彼が実際にアメリカに到達していたんじゃないかって考えている研究者だって居るくらいさ。もちろん、ただの作り話だって言っている人も居るけどね。」

「私には、聖ブレンダンがアメリカまで行けなかったと断言出来るほどの証拠は無いと思えるわ。」妻は力強く答えた。

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 どうですか、面白そうな本でしょ?

 訳本もあったようですが、現在は絶版のようですね。もったいないなあ。

 この本の詳しい内容を紹介したウェブサイトはこちら

蘇った伝説の航海