ようやく、マウ・ピアイルック師一門以外の航法師たちにも注目が集まり始めたミクロネシア海域ですが、現在日本語で読める中では最善の概説書がこの本です。
印東道子編『ミクロネシアを知るための58章』(明石書店、2005年)
編著者の印東さんはミクロネシアを専門とする文化人類学者で、国立民族学博物館教授。その他の執筆者もほぼ全てがミクロネシアを専門とする研究者で固められています。しかし文章はとても読みやすいもので、学術論文のような固い文章を想像すると、大きく裏切られることになります。
各章はそれぞれ数ページで簡潔にまとめられています。例えば島々の地質学的な成り立ち(火山島と珊瑚礁島)や気候区分(北部と南部の違い)を説明した章、ミクロネシア海域の人類がいかにこれらの島々に広がっていったかを説明した章(ポリネシアとは異なり、複数方向からかなり異なった出自の民族集団が入り込んでいった)、ミクロネシアの伝統社会の仕組みを説明した章(島によって社会の仕組みは大きく異なっている)、ミクロネシアの近現代史やキリスト教の影響を説明した章などなど、どれも興味深いトピックばかりです。もちろん航海術について書かれた章も沢山あります。航法技術そのものを説明した章もあれば、カロリン諸島のサウェイ交易に焦点を当てた章、マーシャル諸島の環礁間航海を扱った章、レッパン師やマウ師による航海術復興運動を紹介した章などなど。
お値段は2000円と少々割高ですが、明石書店のような規模の出版社ではこれはしょうがないと思います。内容の充実度を値段で割れば、航海カヌー関連の本の中でもかなりお買い得。
もちろん、航海カヌーに興味があまり無い方でも、ミクロネシアが気になる、いつかミクロネシアに行ってみたい、実は来年度から海外青年協力隊でミクロネシアなんです、というような方にはまずこれをお薦めしたい逸品ですね。名著認定です。