週末に読んだ本ですが、なかなか面白かったので紹介。
藤林泰・宮内泰介(2004)『カツオとかつお節の同時代史』コモンズ
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4906640869/hokuleaunof0e-22/
この本は、かつお漁とかつお節生産に注目して、太平洋・インド洋の過去と現在を照らし出した一冊です。例えば日本のかつお節産業の歴史、モルディブのかつお節生産の現在、ソロモン諸島に進出した「ソロモン大洋」(大洋水産、現マルハの現地法人)の工場の過酷な労働実態、太平洋戦争と焼津・沖縄のかつお漁師達、などなど。
個人的に面白かったのは、中世の琉球・東南アジア・インド洋という海の交易圏に広がっていたカツオ文化の話とか、鹿児島の「山師」(かつお節工場に焙薫用の広葉樹の薪を収める業者)の話、一本釣り漁 業用の鰯を手配するために全国を飛び回る餌屋さんの話ですね。カツオの一本釣り漁法には、ポリネシアで篠遠喜彦先生が発掘しているような釣り針を使って釣るまったりした漁法と、生き餌や水を海面に叩きつけて釣る現在の一本釣り漁法があるのですが、後者も中世には琉球からモルディブにかけて普及していたという話は驚きました。モルディブといえば「モルディブ・フィッシュ」なるかつお節が有名ですが、この本では、おそらく日本とモルディブのかつお節は同根のものだという暫定的な結論を出しています。
逆に、うわあ、と思ったのが、終戦までミクロネシアのチューク(当時はトラックと呼んだ)に進出していた日本のかつお漁師とかつお節生産業者の生活ですね。ちょっとしたことで現地の人間に気にくわないことがあると、気楽に半殺しにしていたのだそうです。たまに殺してしまうこともあったけど、5円の罰金を払えばそれで済んだと、悪びれもせずに話しているインフォーマントが何人かいたんだとか。調査者は沖縄県・宮古島の属島の池間島でそういう話を採取したそうです。それってどうよって思いますね。
あるいは80年代にソロモン諸島で大洋漁業(現在のマルハ)がやっていた鰹節工場があるのですが、そこにカツオを収めていた、沖縄漁民がうち捨てて行った子供の話。父親のいない沖縄系ハーフの子供がソロモン諸島では珍しく無いといいます。ソロモン諸島の人の話で「日本人(沖縄県民以外の日本人のこと)は優しかったが、沖縄人はすぐに怒った」とも。
沖縄というと、長閑な楽園イメージと「太平洋戦争・米軍基地の被害者」のイメージが二枚看板ですが、「加害者としての沖縄」だってあるんですねえ。やっぱし。
沖縄の売り方・売られ方に私が胡散臭さを感じ続けて来たのは、そういう闇の部分がまったく表に出てこない不自然さの故でした。「世界で一番ロハスな島・ハワイ」もそうですが(狂ったみたいにクーラーを効かせているあのハワイのどこがロハスだっての)。美しい南の島の住人はみんな天使のように心優しく自然と共生した生活を営んでいる。それを乱すのは「先進国」から来た(行った)私たちだ、みたいな語り口に接すると、どうも眉に唾をつけたくなるのは、私の心が穢れているからかもしれません。私、トレンディドラマが目に入ると「なんでそんだけ仕事と恋に浮かれていて、家の中がピカピカに片付いてるんだ。家政婦でもいるのか?」と思っていた口でして・・・・。
もちろん積極的に暗部を暴き立てていこうというのは悪趣味ですが、良い面、よそ行きの面ばかりしか見ない・売らないというのは、ちょっと子供向けだよなあということです。