昨日からシステムエラーが発生していて投稿出来なかったですね。
さて、続けて第8章です。この章では、ズニ族の親族システムが日本の影響を受けているのではないかという仮定のもとに議論が展開されます。
親族システムというのは、誰を親戚と見なすのかとか、誰の財産は誰に受け継がれるのかとか、誰と誰は結婚不可で誰と誰なら結婚して良いとかいう決まり事の体系です。日本だったら叔父は叔父、叔母は叔母なんですが、社会によっては叔父という概念が無くて、父親と叔父の区別無くみな同じ呼び方で呼ばれているかもしれない。そういった時には、やはりその社会では生物学的な父親を(日本に比べれば)あまり重視していないと見ることができますね。
また、お父さんの財産を受け継ぐのは誰か。子供みんなで等分するかもしれないし、長男が全部貰うかもしれないし、末っ子が全部貰うのかもしれない。もしかしたらお父さんの財産は子供には受け継がれないで、お父さんの兄弟に受け継がれることになっているかもしれない。
あるいは兄弟姉妹と結婚して子供を作っても良いとか、従兄弟従姉妹からならオッケー(現在の日本はこれですけど、昔は兄弟姉妹で結婚してましたよね)とか。
人類学の世界では、こういった親族システム研究は花形です。あるいは「花形だった」というべきか。かつてクロード・レヴィ=ストロースさんという方が、「誰と誰は結婚しても良いのか」のルールに着目して、そのルールを作って守っていた人たち自身が気づいていなかったルールの効果(女性が同じ家に溜まっていくのを防ぐ)を発見しました。「誰と誰は結婚しても良いのか」ルールは社会によってまちまちなんだけど、とにかく誰かと誰かは結婚しちゃダメよというルールを作っておくと、それだけで家族の内外がシェイクされる。適当によその家から嫁が来て、適当によその家に嫁として出ていくという流れが出来るんで、家の風通しが良くなるわけですな。
要するに、無意識のうちにやっている事が案外重要だったりするというのを、非常に鮮やかに、数学的にズバッと明らかにした。格好いいっ!!
こういう手法を「構造主義」と言います。色々と要素の出入りはあるけど、その出入りによっても無くなってしまわない裏の構造を見つけるゲームが学者さんの世界で流行ったんですな。今から40年くらい前のことです。
ですから、こういった本でも「親族システム」が出てくると、いよいよ真打ち登場かとわくわくしてしまう人がいるんですね。
さて、それでは著者は構造主義人類学ファンの期待に応えてくれているのでしょうか?
まず著者は、ズニの親族システムが、北米の先住民に一般的な母系制(お母さんを重視するシステムのこと。権力や財産が母親からその子供へ受け継がれていく)を基本としていつつも、所々に父系制(お父さんからその子供へというやりかた)が混入していて、異常に複雑になっていると主張します(例によって他のサンプルとの比較は無いのですが)。そして、この父系制の混入を、日本からの移民集団による文化混淆の結果と考えるわけです。
しかし、その議論はかな~り粗い気がします。
例えば、13世紀の日本の親族システムがどういったものだったのかをきちんと検討していない。実は日本の親族システムは、人類学的に見ると、双系制といって男系と女系がごっちゃになっているという、割と出鱈目なシステムと考えられているのですが、著者はあまりその辺をきちんと考慮していない気がします。
また、日本の親族システムが混入したという論拠を、親族呼称の語呂合わせに求めているのも、あまり説得力を持ちません。というか語呂合わせが出てきた時点でトンデモ認定する読み手も珍しくないです。残念。
他に著者はズニの創世神話と日本の山幸彦・海幸彦神話の類似も指摘しますが、山幸彦・海幸彦神話は「釣針喪失譚(つりばりそうしつたん)」と呼ばれて、太平洋沿岸に広~く分布するものですから、これも論拠としては弱い。
次に著者は平安時代の貴族の家族制度がズニの親族システムにとても似ていると言うのですが、これは貴族の家族制度と一般人のそれの違いを考慮していないですし、時代の違いも無視しています。だめだってば。
続いて著者は、割と唐突に、ナマハゲの話を始めます。男鹿半島のものが有名ですが、要するに子供を脅して社会規範を植え付ける鬼の仮面の習俗ですね。私は男鹿半島のナマハゲ実演を見たことがありますが、実際には子供だけじゃなくて「働かねえ嫁はいねえか!」なんて事も口走っていました(笑)。実は、それにそっくりな「カチナ」という習俗がズニにもあるんです。添付した表紙の画像に出ているこれ、ナマハゲじゃなかったんですねえ。
この「カチナ」もまた日本起源ではないかと著者は論じているのですが、そんな海を越えてまでどこかに求法の旅に出ようという仏教徒が、こういった仏教とは無関係の習俗まで持っていくものかどうか、ちょっと疑問です。
それにしても「カチナ」は面白いですね。これはこれできちんと研究したらすごく面白いものが出来そうです。
男鹿半島の「なまはげ館」
http://www.namahage.co.jp/namahagekan/