プロジェクトの設計にスタッフのアンラーニングと成長を埋め込む

水野和敏『プロジェクトGT-R』(双葉社、2009年)、面白かったんでもう読み終わりました。

若い人のために敢えて説明しておくと、GT-Rというのは日産が1969年から自社のスカイラインという車種に設定してきた、高性能バージョンの名前です。

中でも特に有名なのは、1969年発売のPGC10型と、1989年発売のBNR32型。その商品としての位置づけは、一言で言えば

「ポルシェに勝てる(かもしれない)日本の大衆車」

でした。大衆車をメーカーが改造して、お値段3倍から10倍くらいのポルシェに、もしかしたら勝てるかもしれないという夢を売った。それで日本のレース好きの心を掴んで、国内限定のブランド化したんですね。

この本は、そのGT-Rブランドを世界化しようとした、数えて6代目のGT-Rの開発ストーリーです。

著者の水野さんはその6代目(R35型)GT-Rの開発チームのリーダーを務めた方です。長野高専から日産に入り、エンジニアとしてP10型プリメーラとか前出のR32型スカイラインといった、80年代の日産の名作を二つ挙げろと言われたら99%の確立で出てくる組み合わせみたいなののパッケージを手掛けた後にレース部門に出向。グループCという耐久レースのトップカテゴリーで国内で無敵のチームを短期間に作り上げ、水野さんのチームが強すぎたのでレース自体無くなってしまったという、やり過ぎ感のある人です。

この本はそのグループCでの活動から話が始まるのですが、現在の(ブランド立ち上げを任されている立場の)私の興味関心に一番刺さったのは、レース部門とGT-R開発チームの両方で水野さんが採用したチームメイキングの手法です。

チームの規模と予算を敢えて非常識な小ささに設定する。

グループCの時には標準的な人員数の4分の1で。GT-Rの時には人員数半分、予算は標準の7掛け、開発期間も標準の半分。

その理由を簡単に言うと、人が多ければ一人ひとりの成長速度が鈍り、また無責任体制が生まれ、ヴィジョンがボヤけるから。予算や期間を削るのも、そうやって制限を設けた方がスタッフがアタマを使うようになる(=早く成長する)から。

つまり、プロジェクトを描く時点で、スタッフ個々の成長と組織全体の進化を計算に入れ、それを促す仕組みを埋め込んだ上で、タイムスケジュールを決める。

実際にGT-Rプロジェクトに着手しても、何と開発期間の前半分はひたすらスタッフのアンラーニング(日産という巨大企業の中で身につけた慣れや、巨大企業であるがゆえの縦割り思考を解体し、あたかもテック系スタートアップ企業のメンバーのような思考法に組み替えること)に使ったとか。

実際、アンラーニング終了から2年後にはGT-Rはニュルブルクリンクのコースでの市販車のラップタイムでポルシェの記録を塗り替えることにも成功しちゃうのです。