生首カタルシスの代償

 某県にある海兵隊基地の移設先が回り回って旧案と地理的に全く変わらないものとなったそうです。まあしょうがないですよね。某県以外に住む全ての日本国民が、何がどうあっても自分のところに移設されることだけは断固反対、で一致団結しましたから。

 ま、個人的にはね。調布飛行場に海兵隊の部隊を移したいんだけどどうかな、と相談されたら、取り敢えず話は聞くべきだと思うし、一緒に何が出来るか頑張って考えてみるべきだという立場ですよ。調布じゃなくて相模原とか横田とかうちの裏山の多摩ヒルズであってもね(海兵隊じゃなくて空軍の基地なんですが)。どこかで読んだのですが、日本人は交渉に際して「これだけは絶対に譲れない」という条項を明言するところから入り、他の多くの国の人々は「取り敢えずお互いに何を譲れるか」を確認するところから入るそうです。

 それがどの程度事実なのかは知りませんが、箴言としてこれは意味がある。断固とか絶対とかいうフレーズは、決して賢い大人の振るまいではないと思うのですよ。40年前にゲバ棒握って血潮をたぎらせていた系の方々はそういうフレーズに酔っちゃうのかもしれませんがね。蘇れ我が青春の光。安田講堂のリターンマッチを今こそ。

 政権交代で海兵隊基地が県外に行くかと思っていたら、行かなかったという某県の方々は「怒怒怒怒怒」なんだそうです。メディアが大喜びで取り上げてましたね。気持ちはわかります、なんてこたあ書きません。私には本当に、心の底から、某県の方々の行動ロジックが理解出来ない。だからこの際、気持ちの話は抜きにして理屈だけの話をしましょう。

 今回明らかになったのは、アメリカ様のご意向に逆らってアメリカ様の基地の場所を動かそうとすると、日本国の元首のクビは他ならぬ日本国民によって飛ばされるという(笑)、極めて興味深い事実でした。それが明らかになった以上、今後はどの政党の誰が首相になったとしても、米軍基地の問題は「形だけ真剣に、でもアメリカ様のご意向最優先で、要するに何もしないでなりゆきに任せる」以外の選択肢は取らないでしょうよ。真面目に某県外に移そうとした人がどんな目に遭わされたのか思い起こせばね。米軍基地の問題はアンタッチャブル。

 たしかに首相の生首を取れるかもしれない。国家元首の首級を挙げたカタルシスはあるかもしれない。でもその代償は大きいんじゃないですかね。東京のマスメディアを利用したつもりで、実は彼らのメシノタネを提供しただけなんじゃないのかなあ。だって今回の件で一番得したのは、在京マスメディアの正社員さんでしょ。ごっそさん。

 そんなこんなで、きっと地球が滅びるその日まで、某県には広大な米軍基地が存在し続けることでしょう。だっておそらく日本列島の歴史上、最もあの土地に好意的だったであろう統治者を、一時の激情にまかせてここまで追い込んじゃったんですからね。

 こ~おいうときど~いうの? こ~いうの!

「短気は損気」

 なるほど。