ベッティーニはいずこ?

 昨日行われた自転車ロードレースの世界選手権、男子エリートロードレース部門は本命のパオロ・ベッティーニ選手の優勝で幕を閉じました。ハゲのロードレーサー乗り仲間が世界一の座を守ったことは、個人的にも非常に嬉しいことです。私はパオロちゃんと違って「何でも欲しがる」どころか、他人を押しのけることに大いに躊躇する類の人間なのですが、それでも彼の生き方、走り方、表情、たたずまいなど、全てが好みです。

 昨日の彼の戦略もお見事でした。終盤も終盤、最終周回直前までメイン集団の先頭付近で力を貯め、最終周回に入るところでの優勝候補たちのアタックを追走。さらに最終周回の上り区間では鋭いアタックを繰り返して先頭集団をズタズタに切り裂き、最後は5人にまで減らしたトップ集団のゴールスプリントから悠々抜け出してゴール。レース展開もパーフェクトなら、終盤に自力でライバルを振り落とす攻撃的な走り、最後のスプリントでは絶対に自分が勝てると信じてしかもそれを実現してしまう精神力も、さすがは世界王者と言うしかありません。

 いきなり自転車の話かよって? いや、山下公園で「ホクレアを卒業しても自転車の記事書いてください」とリクエストがあったんで、唐突ですがそれに答えております。

 とはいえ、さしものパオロちゃんも最終周回に入るまではイタリア代表チームの力で守られていた。当たり前の話ですけどね。終盤のベルトリーニの「漢引き(おとこびき:完走を捨ててもチームのエースの為に全力で集団の先頭を走り続ける行為)」、レベッリンの捨て身のアタック(レベッリンが逃げることで、イタリアの最大のライバルであるスペインは、ツインエースの一枚であるバルベルデをなし崩しに追走の引きに使わされた)。また最終周回でレベッリンとベッティーニが逃げ集団に乗った後は、イタリア代表チームは後方集団内で勝負から下りる(引きに加わらない)ことで、逃げ集団に入り損ねたスペインのもう一枚のエースであるオスカル・フレイレが前に追いつくことを防いでいたわけです。

 本来は個人競技である世界選手権ロードレースで、ここまで僚友にサポートされたならば、パオロちゃんも勝たないわけにはいかないでしょう。大会直前で出場回避を強いられたダニーロ・ディルーカや、何故か代表に呼ばれなかった旬のスーパースプリンター、「日々是イケメン」ベンナーティが出ておらず、クネゴは例によってピリッとしない以上、イタリアのエースはパオロちゃん一枚だったと思いますしね。

 それにしても痛感するのは、トップレベルのロードレースのチーム戦略の奥の深さです。単に速い選手を集めただけでは勝ちきれない。捨て身で引く役、ライバルを消耗させる役、ゴールラインをトップで走り抜ける役などの役割分担が明確化されており、さらに、それらの役割を理解して的確にレースを展開してゆく頭脳が無ければならない。ロードレース選手の全盛期が、単純な体力の全盛期である20代前半ではなく、20代後半から30過ぎである理由がここにあります。難解な駆け引きが出来るアタマが無ければ勝てないんですね。

 そういえばあの夜の山下公園で、私と藤崎さんは「自分たちはエースではないよね」と話し合っていたのでした。私も藤崎さんも、後にエースとなりうる誰かが続いてくれることを信じて、ベルトリーニのような漢引きを続けてきたのです。ロードレースを見ていない方々の為に付け加えておきますと、だいたいああいう捨て身の引きをやった選手は、引き終わった瞬間に集団から千切れていくんです。自分が引いた選手より何十分も遅れてゴールするか、ワンデーレースの場合は完走さえしないこともある。

 私自身、ホクレアがハワイに帰った時点で集団から千切れていくつもりでした。実際、あの航海の後に日本国内でも色々と未来に向けた動きが出てきておりますし、それを見届けたらもう自分は千切れてリタイアだと。早めにおうち帰ってビールでも飲むかと。

 ・・・・の、つもりだったんですけれどもね。見渡してみると、航海カヌーどころかホクレアに限ってさえ、きちんと動向を伝えるウェブサイトが他に無くなっている。これは全く予想外でした。航海カヌーという、より大きな世界に話を移すと、色々とまた興味深い研究が出てきているのに、それらを解りやすく日本語で解説するサイトも無い。この分野のプロの研究者がそれをしてくれればベストなのですが・・・。

 となると、グリコーゲンを使い果たしつつもまだ棄権は出来ないのでしょうか。ベッティーニはいずこ?