田中武個展「あなたも主人公、ぼくも主人公」

田中武さんの個展を日本橋高島屋6階の画廊で見てきました。

いや、めっちゃくちゃ良かったです。

田中さんと個人的に知り合いであるというのを別にして、凄い良かった。

もちろん私が国産ヒーローもののポピュラー文化が大好きというのはありますから、そこで評価にプラス補正はかかってますが、それを別にしても、日本の伝統文化と日本のポピュラー文化を見事に融合させて最高にテンションが上がる現代アートに仕上げてきたと思いましたね。

(田中さんは日本画出身ですが今回は画材から画題から完全に現代アートです)

何が素晴らしいのか。

まず画力・・・やっぱ上手いですよ端的に言って。真正面から人物描いて「田中武の絵」ってものを表現しつつ写真みたいにリアル。なおかつ服やポーズや小物や背景には幾つもの記号が埋め込まれていて、考察勢としての楽しみもある。

そしてテーマね。

子供時代に憧れた、そしてなれると思っていたヒーローに今、私たちはなれたのでしょうかということをストレートに問いかけてくる。それはヒーローもののコアにあるメッセージでもありますから。パクりじゃない。わかってる!

田中さん自身もドラゴンボールやダイの大冒険に夢中になったそうで、ドラクエの「天空の剣」とか、かめはめ波のポーズとか、そうそうそう、そういうことなんだよ、という・・・・わかりますかね? ファンアートなんですよこれある意味で。ファンだからこそ描ける熱量がある。

それからレンチキュラーを画面の表に貼ったシリーズもあって、これは!!! これだよ!!! となりましたね。

レンチキュラーってのは、よく食玩のシールに使われてる、見る角度で色が変わるあれですよ。あれをアクリル画の表面に貼った作品が並んでて、田中さんオタクのスピリットわかりすぎてませんかと(涙)

そうかと思えばかめはめ波打ったり東映特撮ヒーローの変身ポーズ決めてる子たちの中央に善財童子が立ってたり。というのは、東映特撮ヒーローの変身ポーズや名乗りって歌舞伎の見得から来ているんですが、さらに遡ると仏像のポーズがルーツではないかという仮説を田中さんは立てていて、それをこうやって画面に落とし込んでいる。

「そうそうそう、やっぱ戦隊見る醍醐味ってのは最終話の同時変身からの名乗りなんです!」と熱弁を振るってしまいましたが。

あと、田中さんはオータニサンみたいなスーパースターだけがヒーローだとは思っていないと言っておられて、脇役だってヒーローになれる瞬間があると。

実は以前に「次はヒーローをテーマにします」と伺ったときに、ならば絶対に三条陸さんの『Hero Works』を読んでくださいと言ったんですよ。この本の前半は「ダイの大冒険」の作劇の種明かしなんですが、主人公ダイの相方で引き立て役のポップが終盤でまさかの大仕事をやってのける、あそこが読者が一番盛り上がったとこだったという話がありまして。

主人公にはなれなかったけど、コツコツと積み上げてきた力で主人公を超える一瞬がくるかもしれない、だから・・・というメッセージが「あなたも主人公、ぼくも主人公」という個展タイトルに込められているのかなと思いました。

ちなみにもう結構売約入っているそうで、下手したら二度と現物を見られないかもしれないので、皆さんぜひ見に行ってください。