Vagabond of the Western World(西洋無頼)

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 面白い話を見つけました。

 1976年といえば、このウェブログ的にはもちろん、ホクレアが最初のタヒチ行を成功させた年ということになるのですが、実は同じ年、地球の反対側で、ホクレアと似たような事をやっていた冒険野郎がいたのです。

 その名をティム・セヴェリンTim Severin。アイルランドはコークに住む冒険家です。コーク、かつては(不本意にも)「女王の町Queenstown」と呼ばれた港町コーブCobhを擁するアイルランド南部の町で、19世紀なかばの「大飢饉」以降、無数の移民たちがアメリカへと旅だった土地でもあります*。サッカーファンにはロイ・キーンやリアム・ミラーの故郷と言った方が判りやすいでしょうか。

 さてこのセヴェリン、祖国に伝わる一つの伝説に目をつけました。古代アイルランドの聖人ブレンダンが革の船で西へと漕ぎだし、アメリカ大陸(と思われる土地)まで渡って還ってきたというものです。まあ史実の聖ブレンダンがそのような大航海をしたという証拠は無いのですが、一応、伝説にはそう書いてある。人呼んで「聖ブレンダンの航海Saint Brendan the Navigator」。英文学者にはお馴染みの伝説です。

 ならば俺様がブレンダンの航海が可能だったか実験してやろうではないか。

 とまあ、凄いこと考えるもんです。だって北大西洋ですから。海水温は南太平洋どころの騒ぎではないです。しかも革張りの船。穴が開けば水が入る。

 しかしこの男、実際に巨大な革張り船を造って(以前ご紹介したアイルランドのカラックのお化けサイズでしかも帆走出来る)大西洋に漕ぎ出し、アイスランド経由でついにニューファンドランド島まで渡ってみせたのでした。出航からひと冬をアイスランドで過ごした翌1977年の6月26日。

 天晴れでしょ?

 しかもこの冒険野郎、これは単なる始まりに過ぎなかったんです。1980年にはアラブの大富豪を説き伏せて、中世のアラビア商人の使った商船を復元して、オマーンのマスカットからインド洋を遙々渡り、マラッカ海峡を越えてなんと広州まで旅しました。

 さらにギリシア神話に目を向けたセヴェリンはイアソンとアルゴ船の冒険の再現航海、ユリシーズの冒険の再現航海、中国から筏を組んで北太平洋まで実験航海、アルフレッド・ウォーレスの旅の再現航海など、まあ当たるを構わずなぎ倒す感じで世界中の海を駆けめぐっているという、桁外れの海洋冒険野郎なんです。

 私の所にも一冊、彼の本があります。「The Sindbad Voyage」。セヴェリンの2回目の実験航海の記録です。これは邦訳も出ていたんですが絶版で中古も流通が無く、結局イングランドから例によって古書を取り寄せました。「Brendan's Voyage」は5月にペーパーバックが出るんで、予約してます。

 いかがですか。ナイノアやマタヒ・ワカタカみたいにアイデンティティ探求の旅というのではないけれど(最初のブレンダンの航海はそうかもしれない。アイルランドでは誰でも知ってる話ですから)、こういう面白いおっさんが世の中にいるってだけでも、ちょっと気分が晴れてくる気がしませんか?

 というわけでおっさんの公式サイト。

Home - Tim Severin
Explorer – Traveller – Author – Film Maker ‘The making of a modern legend … the leading explorer of the day’ The Indepen...

*近年アイルランドはバブル景気に沸き返って、移民の末裔たちも全世界から続々とアイルランドに戻ってきているようです。