いよいよ海人丸が北上開始

 海人丸エクスペディションのオフィシャル・ウェブログによれば、双胴サバニ「海人丸」は天候の影響を受けつつも(思いっきり梅雨前線が九州沖縄に停滞してたし)、ついに沖縄本島を離れて北へと向かったようです。

http://sabani.ocean-photo.lomo.jp/?day=20050618
http://requios.livedoor.biz/archives/24268176.html

 そんなこんなで、久しぶりに過去ログを見てみたら、「海人丸」については結構色々と書いていましたね。

http://blogs.yahoo.co.jp/hokulea2006/287699.html
http://blogs.yahoo.co.jp/hokulea2006/358377.html?p=&t=2
http://blogs.yahoo.co.jp/hokulea2006/3532770.html?p=&t=2

 おわかりのように、最初の記事では「何故サバニなのか、何故双胴にするのか意味が見えづらい」と批判しております。「それだったら琉球伝統の進貢船を使った方が良いんじゃないか」と。しかし、この辺はプロジェクトが進む中で整理されてきたようで、現在では次のような説明が為されているようです。

「海人丸は厳密に言うと「サバニ型外洋航海カヌー」。6人乗りで、伝統のサバニを2艘つなげて、ハワイのカヌーにならった大型の舵をとりつけた、和洋折衷の舟です。」

http://www.city.itoman.okinawa.jp/topics/200505/20050501_1.html

 つまり、ポリネシアの外洋航海カヌーへのオマージュ(最近はリスペクトという方が流行っているのかな?)を明確にしており、さらにハワイという特定の地域を明示して、「海人丸」が沖縄の海洋文化とハワイのポリネシア海洋文化を融合させたものだと位置づけている。

 この船が万博に参加するものであるという事、沖縄とハワイの間には近代以降強い結びつきがあるという事、彼ら(OCCJ)の活動がこれまでもポリネシアのアウトリガー・カヌーや伝統航海術にインスパイアされて来たという事を考え合わせれば、今回「サバニ型外洋航海カヌー」というハイブリッドな船を使う意味は、かなりわかりやすく整理されてきたように感じます。「枯野=カヌー語源説」のような妙な枝葉が切り落とされた(あるいは前面に出てこなくなった)のも、コンセプトがわかりやすくなった理由の一つでしょう。

 たまに若い学生さんとお話をして、彼らが「自分は卒論(とか修論)でこういったことをやりたい」というテーマを聞かせていただく機会があるのですが、たいがい最初は「あれも気になるしこれもやりたい」ですごくとっ散らかったコンセプトなんですね。ですが、そういう所から出発していても、準備を進めていくと次第に余計なものが削ぎ落とされていって、形が決まってくる。

 海人丸エクスペディションも同じような経緯を辿ったのではないかと想像します。あれだけ方々を走り回って協賛なり後援なりを取り付けるには、自分たちのやりたい事をわかりやすくシンプルに、しかし魅力的に説明出来なければならないですから。

 私はこの航海が無事に成功した場合、日本国内で双胴の航海カヌーというものの認知度が、ある程度高まるのではないかと期待しています。それは、ポリネシアの航海カヌーの日本来航に対し、少なくとも悪い影響を与えないでしょう。来年あるいは再来年にアオテアロアから巡回して来るであろう「Waka Moana Exhibition」展もありますし、わずかずつではあるけれども、事態は進んで行っていると感じます。

 ですが、もちろん「海人丸」の航海が一気に、例えばホクレアを連れてくるというような展開にはならないでしょうし、それはそれで良いと思います。ホクレアにはホクレアの使命があり、ナイノアさんはそれに従って船を動かしておられるのですから、「海人丸」の航海が成功しましたから、次はホクレア号が来て下さいというのは通らないですものね。

 少しずつ、少しずつです。

 ちなみにホクレア号に関しては、どうも日本国内で招聘の主導権争いみたいなものが、既にあったり無かったりするようですが、今こういった段階でそういう事をしていてもしょうがないんじゃないかな、と思います。私はね。

 航海カヌーがやって来るというのは、何度も指摘しているとおり、本当に内外の多くの力を結集しなければ実現しないイベントであり、そういった大型プロジェクトが動く時に、隅から隅まで一枚岩で考えの違いが存在しないなんて事は、あり得ません。逆に言えば、一部で言われているように、「ホクレア号来航を利用して一儲けをたくらむ人々」が実際に居たとしても、そういった人々だけで航海カヌーを呼ぶ力は無いはずですし、だとすれば、ある程度そういった方々が存在していても目をつぶるべきだと思います。それに、そういった人々が100%欲得ずくで動いているとは思えない。

 だって、航海カヌーなんて、儲からないですもん。

 あれだけ航海カヌー文化復興運動が盛んなハワイにして、航海カヌーに関わっている人々は別にお金持ちじゃない。それどころかむしろお金に不自由されている方もおられると聞きます。

 本当に富や名声だけが欲しいのなら、ホリエモンみたいにIT産業で起業するなり、ネットで株式投資なりした方が手っ取り早いし、まだしも儲かる可能性が高いでしょう。

 今はまだ、それぞれがそれぞれの居場所、それぞれのやり方で、ホクレア号とリモート・オセアニアの航海カヌー文化復興運動について語っていくべき時期なのではないでしょうか。だから、お互いに足の引っ張り合いみたいな事はしない方が良い。私はそう考えています。これまでにも何度かホクレア号を呼ぼうという動きはあったし、一度は石垣島の行政が笹川財団からお金を貰って動いた事もある。でもホクレア号は来なかった。それだけホクレア号来航というのは重いものなのでしょう。一時の風速だけで呼べるようなものではない。

 とすれば、色々な意味で、あせる必要は無いはずです。