続報・サバニ帆漕

 アウトリガー・カヌー・クラブ・ジャパンのサバニ航海イベントの詳細が見えてきました。

 後援に文部科学省、沖縄県、宮崎県、愛知県の文字が並びました。他、後援、協力団体の数は数えるのも大変なくらい沢山。各地の自治体や教育委員会、経営者団体などなど。応援する会にはナイノア・トンプソン氏のほか茂在寅男さんの名前も見えます。

 また「2005年8月6日(土)海人丸EXPEDITIONフォーラム(愛知万博 地球市民村にて)」ということで万博会場内でのイベントも決定。ルート上の7つほどの小学校も訪問して回るようです。ナイノア・トンプソン氏もこれらに参加するのかどうかは謎。

http://www.occj.org/expedition/2005/index.htm

 各種メディアにも取り上げられていますね。

http://www.ryukyushimpo.co.jp/news01/2005/2005_01/050121eb.html

 今回使用するサバニは新しく新造したもので、というかサバニなのかこれは? サバニを二つ横に繋げたダブルサバニなんだそうです。要するにポリネシアのダブルカヌーとサバニの合いの子ですね。へえ。

 このダブルサバニは愛知到着後、会場に展示されるんだそうです。ということは以前の計画にあった「カヌー発祥の地、伊豆まで航海」というのは取りやめになったんだな。文部科学省ほかの後援ゲットで万博関連イベントとして正式に認知された(=会場内で色々やれる)結果でしょう。

 愛知万博は何やら直前になってずいぶん注目されていますが、果たしてダブルサバニイベントがホクレアの日本航海の機運に最終的な烽火を上げるのでしょうか(それが万博みたいにYOSHIKI作曲のテーマソングを浜崎あゆみが歌うとか、佐渡裕指揮のオーケストラが出てくるとか、そういう「関係者以外立ち入り禁止」系の航海になってしまったらイヤですけどね)。

 それと、あくまでも個人的感想なのですが、企画を一本貫く思想とか目的のようなものが何か今ひとつ見えづらいままになっているような気もします。もちろんこれから企画が練り込まれて行く中でそのような点ははっきり見えてくるのだと思いますけれども。

 気になったのは以下の諸点。

・何故サバニなのか、何故ダブルカヌー風に横に繋げるのか?

 沖縄の海洋文化の一つの粋がサバニであることはわかりますが、サバニはそもそも漁船であって、長距離の航海をする為のものではなく、琉球王朝時代にそのような役割を担っていたのはジャンクの一種である進貢船のようです。そしてその復元船も既に存在している。

404 Not Found

 どうせならこっちを使った方が、琉球と日本の関わりをよりクリアに感じられると思うのですが。
 ダブルカヌー風のサバニを使う意味も(外洋での安定というのはわかるのですが)もう少し丁寧に説明してくれた方が良いのではないでしょうか。例えばポリネシアのダブルカヌーへのトリビュートなのだとか。

・リモート・オセアニアの伝統航海術との関連は?

 荒木さんがナイノアさんと親交が深く、ホクレアの搭乗経験もある事はわかりますし、ポリネシアの航海カヌー文化の復興運動に興味をお持ちだという事もわかります。ですが、ここで突然それらしきものを持ち込んで試してみる意味が今ひとつクリアに見えて来ない。

 仮にサバニをダブルカヌー風にするのと同く、リモート・オセアニアの伝統航海術復興運動へのトリビュートであるならば、もう少しきちんとそれを語った方が良いと思います。
 
 また、黒潮文化の問題と絡めていこうという姿勢も読みとれますが、それだったら尚のこと、きちんとした考証のもとに、黒潮文化圏での文化要素の伝播を担った船を復元し、黒潮文化圏の遠洋航海術を用いたイベントにした方が、より意義深いものになるはずです。

 これらの混乱については、枯野=カヌー説や縄文人=プレ・ラピタ人説、黒潮文化とリモート・オセアニアの海洋文化の安易な混同など、ホクレアを語る中でこれまで真剣な検討を受けることなく放置されてきた雑多な言説が、未整理のままに表出している印象を強く受けます。また、ハワイを例に取れば、冒険・アイデンティティ探求・学術研究・社会福祉・教育という諸要素が航海カヌーという一点に結晶する必然性があったからこそ、これだけ豊かな結果が生まれてきたと思うのですが、そのプロセスの背景には、オセアニア人類学の学説史の検討もあり、多文化主義と先住民のアイデンティティ回復の相克という思想的対立もあり、ハワイ固有の社会事情とその解決というローカルな問題もありと、それぞれに真摯な思索と実践が積み重ねられて来たことを見逃してはならないと思います。

 つまり、彼らは決して単なる物珍しさやおもしろさだけでやっているのではなく、彼らの生活のアクチュアリティと不可分に結びついた、切実な社会運動でもあったはずなのです。ですから、なんとなく上っ面だけをなぞって日本という土地に当てはめてみただけでは、色々なところで「これはどうなの?」という齟齬が出てくる。

 個人的には、このイベントは現時点で、まだまだ練り込み不足のまま見切り発車している印象が強いですね。、終わった後で「あれは何だったんだろう?」ということにならなければ良いのですが。

・「我が国に唯一残された沖縄糸満の海人文化サバニ」

 海人文化は我が国の中で糸満にしか残っていないとは思わないですが。「うみんちゅ」文化ならそうかもしれない・・・。

・「世界中に広がったカヌー(舟)の語源となった南伊豆まで航海」

 この企画は消えたと思いますが、枯野=カヌーの語源説はコラムで論じた通り、かなり怪しいです。

==
main page「ホクレア号を巡る沢山のお話を」
http://www.geocities.jp/hokulea2006/index.html