さっさと歩け、歩き出せ

 昨日、立教大学社会学部主催のシンポジウムがありました。内藤正敏さんと石川直樹さんの公開対談という、わかっている人からすればちょっと唸らせるようなコンセプトなんですが、企画担当のM先生曰く「教授会では特に大きなリアクションも無く・・・(涙)」という感じだったそうです。

 ま、専任の先生方はとにかく忙しいみたいですからね。助教のMさんとFさんを除き、顔に疲労の色が浮かんでいない人を私は見たことが無い・・・・若さって素敵。

 話を戻します。

 うちのゼミ生も何人か聴きに行ってきたらしいです。その中で少なくとも1名は、写真歴半年にもかかわらず自分の作品をまとめたブックを持参して、石川さんにアドバイスを請うた。

 いや、行けって尻を叩いたのは私なんですが、ともかく突撃していったんだから偉いですよ。普通、歴半年で国内若手のトップクラスに自作見せられますか? 本人も尻込みはしてたんですが、半ば強引に流れを作って行かせました。結果としては、非常に為になるアドバイスを沢山もらえて大感激していたわけです。

 こういう若者は伸びますよ。うちのゼミにも数人います。「行け」っていったら取り敢えず突っ込んでく素直なのが。だいたい私が「行け」というのは、今の実力からすればちょっと厳しいかなみたいなゾーン。ただし安全はこっちで確保出来るから、跳ね返されてきてもちゃんとレスキューとリカバリーは責任持つよという時ですね。デュークさんとかケニーとか拓海さんとか石川さんとか、「若者を育てる」というコンセプトを理解してくれていて、あうんの呼吸でちゃんとコントロールして貰える大人たちがいる、基本的には安全な世界です。

 安全だから行けば良いと思うんですがねえ。これがなかなか。立教の学生は基本的に大人しいんで、毎年苦労します。一番苦労するのがそこですね。大人の世界の機微がまだわかっていなくて、こちらが出している(かなりわかりやすい)サインを理解出来ない子がかなり多い。それから、プライベートな場で創作の真似事はやっているのだけれど、うちわ以外の場には出て行こうとしないみたいなのもたまにいます。良く聞かされるエクスキューズが「単なる趣味でやってるんで」「自己満足でやってるんで」・・・・・。

 苦しいなあ。本当にただの趣味や自己満足なのだとしたら、誰にどう評価されようが全く気にならないはずでしょう。その行為の価値を測るものさしは自分だけなのだとしたら、もっと気軽に色々な人に見せて聴かせて、何を言われても「なるほどあなたにはそう見えますか」で受け流せるはず。中高年の趣味なんかだいたいそうでしょ。下手くそでもどんどん表に出てくるからね、彼らは。そして、表に出て行くことで新たな出会いがあり、繋がりが生まれ、面白いことが始まる。おじさんおばさんたちはそのメリットを良く知っているんだな。

 若者たちにそれが出来ないってのは、やっぱり本当は「単なる趣味」でも「自己満足」でも無いんだと思うんです。多分、傷つきたくないんですよ。取り敢えずプライド高いのは、見ていてわかりますから。プライドはね。ただ、悪いけどそのプライドには裏付けが無い。二十歳そこそこの青二才がうちわの世界でだけやってる創作の真似事にどれだけの価値があるものかと考えればわかる。殆ど何の価値も無いんです。コンペティションの中に飛び込んでいかないと、仮に才能があったとしても芽は出ない。コンペティションの中で最初は無視され、あるいは潰されながら這い上がっていくのでないとね。私だって院生の頃に散々、投稿論文を潰されましたから。クオリティが足りなかったのも当然あるし、都合の悪い話が書かれていたから潰されたのもあります(そういうのはいずれ別の場所で日の目を見るわけですが)。滅茶苦茶悔しかったけど、そっから這い上がっていった経験は大きな財産でもある。

 ま、趣味ということにしておきたいなら、それはそれで良いんです。趣味で終わっても実害は無いし。とはいえ、そうやって勝負を避け続けたまま3年生になって就活に突入するってのはどうなんだろう。勝負しなけりゃ人間としての底力は付かないし、でも昨今の就活は容赦なく学生を「潰し」て選別にかけるわけでしょ。いきなりそんな非人間的なコンペティションに入っていって、いきなり非人間的に潰されるよか、1年2年のうちに、サポートしてくれる大人がいる場所で揉まれておいた方が良いんじゃないのかなあ。

 いずれにしても、若者は素直なのが一番得するんだなあと改めて思う今日このごろです。生意気結構、謙虚なのも結構。でもとにかく素直じゃないとね。私も随分と生意気な若者だったと思いますが、「あれやってみろ」と言われたら取り敢えず(文句を言いながらも)すぐに動いてました。それで周囲の大人たちに「こいつ生意気だけど素直だな」という形で、色々と引っ張り上げてもらえたんだなと、振り返ってみれば痛感します。

 だいたい、世の中には才能と運と向上心と素直さを兼ね備えた人間がいくらでもいるんですからね。二十歳くらいの若者においては1年2年程度のキャリアの差なんて、3ヶ月で追いつかれて半年後には抜き去られ、1年後には背中も見えないくらい離されている程度のもんです。

 言い訳はいらん。さっさと歩け。これが今日の結論。