本日開催された「南山・何でも検証ワークショップ」の速報です。
まず、飯田氏から「日本の住宅産業は戦前のごくわずかな例や旧公団、東急の田園都市線沿線開発(港北ニュータウン)を除けば、街を育てるという視点を欠いた極めて低レベルな仕事をしてきたが、その戦前の希少な例である成城や田園調布、芦屋などはいずれも、開発時では中流サラリーマンを対象にした住宅地であったにもかかわらず、現在では日本を代表する高級住宅地となっている。その理由は強力なタウンマネジメントの存在である。南山東部においても強力なタウンマネジメントを実施することで、付加価値を高めうるはずである。」との問題提起が行われました。
これに対して、タウンマネジメントの実際の手法についての議論が行われ、住民協定は一般的に可能であるにしても、マンションとは違って居住者全員加入の組合は難しいのではないかとの指摘がありました。居住者全員加入を実現する場合には、水道や道路など生活に絶対不可欠のインフラを居住者の組合が所有している必要があるし、南山においてそうした状況は実現不可能であるため、居住者の8割から9割が加入するような組合が限界であるとの結論になりました。
しかしながら、そうしたタウンマネジメント組織が南山内部の不動産売買の仲介や不動産の管理、あるいは賃貸不動産の経営なども行えるようであれば、南山の不動産流通のマネジメントを通じて南山の不動産価値を高める(望ましくない種類の店子や居住者のフィルタリングによる)ことも可能であるとの議論もありました。
こうした組織に関して実現可能性を確認したところ、国土交通省の支援事業の一つに採択される可能性が極めて高い上に、組合自身がそれを強く望んでいるとの報告がありました。
次に成瀬氏から、保留地を引き受けるデベロッパー(野村不動産・大和ハウス)にいかに「里山コモンズ」のコンセプトを共有する建て売り住宅を建てさせるかという報告がありました。成瀬氏は、旧南山スポーツ広場跡地がマンションから戸建て住宅地へと計画変更される可能性が大きいことを踏まえ、大手デベロッパーはこの種の全く新しい概念の商品開発に手を出す余裕も意志も無いので、もしも彼らにそういった住宅を造らせたいのであれば、それを望む者が具体的な商品コンセプトと、それを買いたいと希望する顧客のリストを彼らに提供しなければならないと指摘しました。
これを受けた議論では、宇野氏より「もしもそれを狙うなら、残された時間はあと数ヶ月しかない」との指摘がありました。
最後にNPO法人「南山の自然を守り育てる会」から、里山コモンズ住宅のビジネスモデルとして「20戸のタウンハウスに0.9ヘクタールの土地を付け、うち0.6ヘクタールを農地と里山にして、1戸4500万円で売る」とのプランが示されました。
これについてはまず司会から「その事業をやる予定の法人の名称を今ここで明らかにしてください」と要請し、菊地会長から「南山の自然を守り育てる会」がやるとの返答がありました。続いて参加者から、土地価格の設定がおかしい(菊地案では平米あたり6万円)との指摘があり、換地でやるのであれば最低でも平米あたり15万であろうとの議論になりました。更に別の参加者から、現在のプランは原価で売る計算になっているが、金利やリスクヘッジ分の利潤を乗せなければこれはビジネスとして成立しないとの指摘があり、土地価格を平米あたり15万として再計算した結果、売価で85平米のタウンハウスが1億円を越えることになり、これはビジネスとしてあり得ないとの結論が出されました。
そこで司会の提案により、平米あたり15万で20戸、敷地0.5ヘクタールの物件を再計算してみましたが、それでも売価7500万以上になり、同面積のマンションが4000万円台で買える現状と乖離しているとの結論になりました。また別の参加者からは、そんなに広い農地を誰が手入れするのかとの質問があり、1戸が片手間で持てる農地は2坪が限度であろうとの議論になりました。更に別の参加者から、里山というのは住宅から離れた場所にあるからこそ雑木林にしておけるのであって、住宅に隣接してそういうものがあれば、虫や蛇が出て嫌だという苦情が必ず出るだろうとも指摘があり、次のワークショップでレクチャーしていただく予定の甲斐徹郎さんがプロデュースした「経堂の杜」や「欅ハウス」など、雑木林を「生態系保全の場」ではなく「空調装置」として割り切って扱うようなものでなければ、商品として成り立たないであろうとの結論になりました。
ではいかなる形ならば「里山コモンズ住宅」が実現出来るのかとの議論となり、以下のような条件が導き出されました。
・ 客単価は1軒あたり7000万円台以上が基本。何故ならば、保留地に建設されるデベロッパー物件がそのクラスになるから(例えば向陽台にトヨタホームが造って売っている「ゆめそらの丘」が7000万台後半。長峰にある「ルナオーブ若葉台」が6000万台)。
・ 緑地は買うのではなく、地権者の手元に残る換地を生産緑地指定してもらい、入居者と地権者の間に使用契約を交わすなどして確保する手もある。
・ 定期借地権契約に応じてくれる地権者が居れば、定期借地権で土地を確保してイニシャルコストを安くする。
議論はここで時間切れとなりましたが、「南山の自然を守り育てる会」の「里山コモンズ住宅」計画がまだまだ現実性の薄いプランの段階である事実が浮き彫りとなりました。組合の宇野氏からは、同会で全てをやるのは非現実的であるとの見解が示され、「(里山コモンズ住宅作りの中で)自分たちで出来ることと出来ないことの区別を付けて、出来ることに集中していく必要がある」との忠告も伝えられました。