1巻に引き続き2巻でも順調に無能王の真価を発揮しておられますところのフェリペ4世陛下。実際に彼の治世は政治的には見るべきところが無い44年間だったのですが、実は彼はスペインに巨大な遺産をも残していった人でした。や、負の遺産でしょなんで冷静な突っ込みはお控え下さい。その通りですけれども、正の遺産も多少はあった。
絵画です。彼は歴史上指折りの絵画コレクターだったんですが、それがそのままそっくりプラド美術館に収まって、観光大国スペインの大看板になっておるのですよ。政治家としてはたしかに無能そのものだったようですが、美術品の目利きとしては大したものだった。上京間もないベラスケスの才能を見抜いて大抜擢したことから見ても、彼の目は本物だったと言えるでしょう。
フェリペ4世陛下のお気に入り筆頭はルーベンスでした。ピーテル・パウル・ルーベンス。1577年ドイツ生まれ。隊長より5つ年上ってことですね。ご両親がフランドルのアントウェルペン出身だったので、10歳の時にフランドルに移り、1591年ごろから画家としての修業を開始します。1600年から8年間はイタリアでマントヴァ公爵家に仕えていましたが、オランダとスペインの間に休戦協定が結ばれるとともにフランドルに帰還。仕えた先は? もちろんフランドルの支配者であるアウストリア大公アルブレヒト殿下の宮廷でした。といっても判りづらいかな? フェリペ2世陛下の娘婿でバリバリのハプスブルガーですよ。つまりスペイン王宮のフランドル支店みたいなもんです。
まあそういった縁もあってルーベンスはスペインにも2回訪れているのですが、フェリペ4世陛下はこの支店採用の宮廷画家に熱中してしまうのです。そしてルーベンスのこれはという作品を集めに集めた。代表的なのが「三美神」ですね。むちむちのおばさまが3人、輪になっているという。私も実際にプラドで見ましたけど、なかなかのものでしたよ。お腹のたるみ具合とか。
それからティツィアーノも大好きでした。16世紀イタリアの大家ですね。実はルーベンス先生、1628年にマドリッドを訪れた時、フェリペ4世陛下に秘蔵のティツィアーノ・コレクションを見せてもらって、ティツィアーノマニアの仲間入りを果たしたとされています。描いた女性の体脂肪率で言えば明らかにルーベンスの方がティツィアーノより上ですけども、作風はたしかに似ているものがある。ティツィアーノが描いたルネサンスの清楚な美女にバロックの乳脂をぶち込んだらルーベンス。非常に解りやすいですね。
ちなみにフェリペ4世陛下、1巻で出てきたあのイングランドの坊ちゃんの帰りしな、おみやげに秘蔵のティツィアーノを1枚プレゼントしております。ハプスブルグ朝スペインの栄光の礎を築いたカルロス1世陛下のお姿。「カルロス5世と猟犬」という作品。現在はプラド美術館にあります。
何でイングランドの坊ちゃんに差し上げた絵がプラドにあるのかって?
1649年にピューリタン革命が起こってチャールズ1世が処刑されると、遺産はオークションにかけられました。もちろんフェリペ4世陛下もこのオークションに参加して、28年前にプレゼントしたあの1枚を取り戻したのであります。
なんて奴だ。