日本カヌー連盟が動く

 今号の『Tarzan』を眺めていたら、面白い話がありました。

 あの『ホクレア号について語ろう』を作った内田正洋さんの連載コラム「いざっ、カマ・ク・ラ」によれば、日本カヌー連盟という団体が、これまでの競技一辺倒から娯楽(そういうネーミングらしい)部門にも手を広げるそうで、既に出来たのか、もうすぐ出来るのかはわかりませんが、シーカヤックやツーリングのようなものを扱う部局を設立するんだそうです。

 とりあえずリンク。社団法人日本カヌー連盟。
http://www.canoe.or.jp/index.html

 既に理事会のメンバーも決まっているらしく、理事長がモンベル社社長の辰野勇さん。他に理事として野田知佑さん、内田正洋さん、新谷暁生さんが加わっているのだそうです。要するに日本のアウトドア・レクリエーション産業のビッグネームをアタマに、競技カヌー以外のカヌー文化のビッグネームをずらっと抑えた布陣ですね。あるいは『Be-PAL』な面々。

 へえ。

 面白い。何がどうなってるんだか、そういう人たちを揃えて一体何をするつもりなのか、今ひとつというか全然わからないですが、何かが動いているという事だけは感じられます。内田正洋さんは早速、日本カヌー連盟の取り扱い品目に航海カヌーを付け加える野望を表明しておられました。

 私は競技カヌーには何の興味も無く、それ以外のカヌーは乗ってみたいけど乗ったことがないという完全な門外漢なので、この世界の仕組みもなにもわからないのですが。一体何がどうなってゆくのでしょうね。

 一つの可能性としては、West2723さんが仄めかしていたように、日本カヌー連盟(の理事としての内田正洋さん)が音頭を取って、航海カヌーを呼ぶという流れがあるでしょう。

 といっても、一体この団体はどういう団体なのか。組織図を見てみましょう。

HOME
各種カヌー競技(カヌースプリント・カヌースラローム・SUP・カヌーワイルドウォーター・カヌーポロ・ドラゴンカヌー・カヌーフリースタイル・その他の競技)を統括している、公益社団法人日本カヌー連盟の公式サイトです。各競技についての紹介と合わせて...

 まず気が付くのは、えれえ大きな組織だなってことですね。なんか名前の数が違いますもんね。それに左の方、外部団体派遣役員という所。JOCとか日本体育協会という団体名が見えます。JOCというのは日本オリンピック協会。現在は塀の中で休暇を取っておられる堤義明さんが前の会長をやっていた組織ですね。そこに派遣されている元安さんという方は叙勲(国から勲章を貰うこと)まで受けておられる偉い方です。理事の中には他にも叙勲者がいるそうです。日本体育協会は、国体とかやってる団体ね。

 連盟規約を見ると、会員となれるのは各都道府県の競技カヌーを統括する組織。個人は正会員にはなれません。

 団体の所在地は代々木オリンピックプールのはす向かい。堤義明さんのコクド本社からも歩いて5分。JOCや日本体育協会に役員を送り込んでいる事からもわかるように、文部科学省ともかなり近い組織ですね。totoのバナーも貼ってあるし。まあ、一言で言えば体育(レクリエーションとしてのスポーツではなく)関係の政治団体。
 
 なるほどね。これは・・・・どうなんでしょうか。

 私は二つの展開を予想します。
 一つはこれで一気に話が進む展開。これだけ政治力がある組織ですから、やり手のネゴシエーターがいれば文部科学省からお金を引っ張ってくるのも割と簡単でしょう。それこそ国立民族学博物館とか日本文化研究センターあたりのプロジェクト研究にしてしまえば、1000万や2000万なんて科学研究費で右から左に出てくると思います。いくら財政難だとはいえ、偉い先生が絡むと動くゼニの桁が違うもんです。ついでにアメリカ大使館あたりからも協賛を取って、もちろんモンベルやクイックシルバーなんかも有望でしょう。

 この場合の問題は、既に論じたように、お大尽型の招致になると、一般人の関わりが制限される可能性も無視出来ないという所でしょう。きっと歓迎式典の主賓は文部科学大臣とかカヌー連盟理事長とか駐日アメリカ大使ですな。お巡りさんが厳重に会場を警備しちゃってね。お巡りさんの邪魔をすると公務執行妨害で塀の中に入れられてしまいますから気をつけよう。

 要するに、言い方は悪いですけれども、ホクレア来航が(お金を手配した)偉い人たちの為のイベントになってしまって、私たち下々の庶民はお情けでホクレアを拝ませていただけるだけになりゃしないかって懸念がある。ま、あくまでも可能性の問題ですけどね。

 もう一つは、競技カヌーでも娯楽カヌーでもない航海カヌー絡みのイベントには、さすがにそんな本腰を入れられないという展開。団体として見れば規模は大きいし政治力もあるでしょうが、やはり入ってきたお金は選手強化に回したいというのが本音でしょう。とすれば、日本カヌー連盟ルートの招致は進まない。もちろんロビーイングのやり方次第では、選手強化とは別の性格の事業として採用される可能性もある。ですが、内田正洋さんは、そういう寝技政治的な動きが出来る人とは思えないですね。良くも悪くも(付け加えて言えば、「縄文人=プレ・ラピタ人=ポリネシア人の先祖」説を唱えている限り、学術的な事業としての予算は取れないと思います)。

 というわけで、このニュース、要注目ではありますけれども、視界は必ずしも良好とは言えないのではないか、というのが私の感想です。

 もう一つ、これはごく個人的な印象なんですが、『Be-PAL』な人たちは、うちわではすごく仲がよいのはわかりますけれども、外部にわかりやすくアピールしていくのはあまり巧く無いような気がします。別の言い方をすると、エコロジカルなネイチャー・ボヘミアンを気取ってしまうような、「俺たちだけがわかってれば良いのさ」みたいな感じ。 face to faceのコミュニケーションと『Be-PAL』的人脈・価値観に依存しすぎていて、様々なメディアを通して別の価値観・信条を持つ人々に辛抱強く、粘り強く語りかけていく姿勢が薄いかなあという気がしています。

でも、日本中の人々が椎名誠さんや野田知佑さんのような生き方が出来るわけないし、そんなことになったら日本の社会は成り立たない。彼らは格好良いですけど、そこらの真面目なサラリーマンのおじさんたちが社会を支えているからこそ、『Be-PAL』の書き手にもご飯が回ってくるのだと私は思っています。だからそこらの「は? カヌー? ああ、昔アーセナルにいた人ね。」みたいな人たちとも、出来ればホクレアの来航という出来事を一緒に経験したい。

ですから、日本カヌー連盟が取り組むのであれば、偉い人だけのものでも『Be-PAL』や『Tarzan』の読者だけのものでもない、日本社会全体に開かれたものとして提示してくれることを大いに期待したいです。