さて、前回はホクレア号を呼ぶ際に私たちが作りうる組織の一つのモデルとして、ボトムアップ・モデルというのを提唱致しました。その要点は次の通りでした。
・全てを統括する組織を作らない(中央の管理機能は最低限にする)。
・お金をなるべく動かさない。
・港を持つ地域に組織を作り、そこにホクレアを招聘する。一つの組織は自分の港にホクレアが滞在している間だけに責任を持つ。
・このような小組織をいくつか並行して機能させることで、結果としてホクレアの航海全体をサポートする。
あらためて補足で解説しておきますと、このシステムのキモは「個々の組織は他の地域の事に責任を持たず干渉しない」事で、とにかく仕事量を減らし、限られたリソースをホクレアのサポートに集中投入するという事です。仮にどこかの組織のシステムがダウンしたとしても、そこをバイパスしてホクレアを動かせば、全体に与える影響は軽微なものとなります。またダウンしたシステムは切り捨てることで、その回復に中央の管理リソースが浪費されるリスクを防ぐ事が出来ます。
概念図
連絡組織 連絡組織 連絡組織
┏┳┳┳┳╋┳┳┳┳┓ ┏┳┳┳┳╋┳┳┳┳┓ ┏┳┳┳╋┳┳┳┳┓ ┳
港港港港港港港港港港港 港港■港港港港港港港港 港港港港港港港港港港 ■
↑ ↑
ダウンした組織 切除する
つまりどういうことかというと、こういう大きなプロジェクトでは中央で管理する部分と末端部分の意志疎通そのものが多大なエネルギーを浪費するから、そのような所に食われるエネルギーを可能な限り節約していくわけです。例えば「あれはどうなった」「ちょっとまて調べる」「これはどうなった」「担当者に問い合わせる」「あそこが書類を出してこないので全体の作業がストップしている」「まだか」「まだだ」・・・・ああ時間の無駄。それだったらそういう所は切り捨ててしまう方が良い。
幸いにしてホクレアは船ですので、例えばA港とC港の間にあったB港の組織がダウンした場合(例えば指定期限までに足並みを揃えられず、見通しが立たなかった場合など)、単に寄港予定からB港を省いてA港やC港の滞在を延ばせば済みますね。
またそれぞれの港に権限を最大限大きく持たせる事で、中央の仕事量を減らすわけです(事務連絡や協議に奪われる時間や金を省く)。おそらく専従職員などを置く事は不可能でしょうから、中央の事務処理量はギリギリまで減らして、最低限必要な情報の取り纏めとポリネシア航海協会との協議に限定する必要があるでしょうし。
さて、それではこの港ごとの組織は、具体的には何をやれば良いのでしょうか。
最低限必要なのは次のものです。
1:ホクレアと伴走船の停泊出来る場所を確保する(事務処理を含む)
2:クルーやスタッフの寝場所と食事を手配する
3:陸上移動のスタッフを次の寄港地まで送り届ける
え? これだけ?
これだけだと思うんですが、あと何かありますでしょうか。私の記憶が確かなら、ビショップ博物館には日本語を話すスタッフが複数居たと思いますから、最悪、通訳はそういう方がやってくれれば良いでしょう。もちろんアテンドする人が全行程張り付けでいければそれに越したことは無いけど、別に治安が悪い国じゃないし、英語はそこそこ通じるし、そこまで用意して差し上げなくても勝手に旅していってくれませんかね? というかタダでも良いからホクレアのクルーに同行してお手伝いしたいって人、いっぱい居ると思うし。
もちろんこれだけじゃつまらんから、適宜アクティヴィティをアレンジした方が良いでしょう。私だったら絶対に子供達との交流をアレンジする。あるいは漁師さんたちとの交流も良い。ハワイ移民の係累が居る方々との交流も良い。まあでもそういうのは、自ずと話が出来て動いていくと思うのですよ。そのプロセスの中で、また自分たちの故郷がどんな所なのか、どんな海を持っているのか、どんな人が住んでいるのかなどなど、見直されて行くと思いますし。
でも、ともかく最低限のスターターセットはこれだけだと思います。最初に日本国に入る港では通関手続きなんか必要でしょうが、これはポリネシア航海協会の仕事でしょうしね。係留許可申し込み書を書くとか、港湾事務所に持っていくとかは手伝ってあげたって良いでしょう。寝場所と食い物。これはとにかく人づてですわね。送り届け。これは探せばミニヴァンの2台や3台転がってるでしょう。
とすれば、なんだ、最大の課題は寝場所30人分と食い物の調達だ。でもこれも同志を10人揃えたらどうにか出来ると思うんですよ。
つけ加えると、日本の社会にはこういう事をやらすのに打ってつけの人たちが居る。
つまり・・・・・大学生です。
日本国には駅弁大学といって、全ての都道府県に国立(独立行政法人)大が必ず一つ以上存在しています。そしてそこに通う人々は(言っちゃあ悪いですが)時間も体力も有り余っている上にたいがいが自動車免許もマイカーも持っている。英語だってなんとかリンガ・フランカ程度には使えるはず。なんてステキなの。
さて私は、まあ海とは関係無いのですが、この手のイベントに関わった若者が短い期間でどれほど成長するか、実際に目撃した事があります。不登校の引きこもりみたいな生活をしていた子が、あるいは自殺でもしかねないんじゃないかと周囲から見られていた子が、こういうイベントに関わる事で自分を取り戻す。あるいは発見する。これまで航海カヌー文化復興運動が常に青少年の教育活動と寄り添って来た事を思えば、そういう方面に枝を広げて行くことは決して本筋から外れていないでしょう。
というわけで、私だったら地元の国立大を抱き込みにかかりますね。それも正面玄関からじゃない。まずはこういうのに興味持ちそうな先生に直接話を持ち込んでしまう。その先生を巻き込めば、それでそのゼミの学生を丸ごとスカウトしたも同然です。大学側にも、講演会とか特別講義みたいな形で伝統航海士と学生が関われるというメリットがありますし。
ですから、火をおこす手順としては
・同志を募る
・招致委員会のような組織を作る
これで準備完了です。ここまでやった組織がいくつか集まった所で、みんなでポリネシア航海協会にボールを投げる。向こうからボールが返ってきたら、つまりそちらに寄る意志があるとなれば、具体的な日程の詰めに入って具体的に寝場所の手配だのアクティヴィティのアレンジだの入港許可の手配だのに動けば良い。
いかがでしょうか。一つの提案としてのボトムアップ・モデル。結構面白そうだと思いませんか?