私たちに何が出来るのか?(第2回:ボトムアップ・モデル)

 さて、前回は「ホクレアを呼ぶ組織の資金力」について検討しました。そこでの結論は「お金持ちの組織が呼ぶと、たぶん私たちはその組織にお金を払ってホクレアを拝ませていただく、善光寺の本尊の出開帳みたいなものになる」ってことでした。万博もそうですし、海外の有名絵画コレクションが国立西洋美術館に来た時もそうですね。

 それで、まあそうなるのであれば、私たちがどうこう言う必要も無ければお手伝いする必要も無かろうと考えますので、以後はお金が無い組織が呼ぶケースについてのみ検討することに致しました。

 今回のお題はこれです。

「そのように、お金はないけれどもホクレアを呼びうる組織は、いかにして発生しうるのか」

 じゃあそういう組織が呼ぶとして、その組織はどうやって出現するんだろうという事ですね。え~それで今回はいきなり結論から入らせていただきます。

「問題なのは【最初の触媒が何か】だけであり、その触媒さえ適切にもたらされたならば、後は自ずとサポーターが自己組織化する。」

 ちょっと難しいかな。つまりですね。ホクレアを呼ぶ(というか日本滞在中の世話をする)ってことが大きなプロジェクトであることは間違い無いわけです。それで、それくらい大きなプロジェクトを、企業体ではない組織が仕切るのであれば、そのメンバーはどうしても「日本中のホクレアファン、そしてその予備軍を総動員したもの」にならざるを得ない。それだけの力を合わせないと不可能だと思うんです。

 ちょっと概算してみましょうか。
 とりあえず私たちは「陸の上」でのポリネシア航海協会の活動を可能な限りサポートすることにします。仮に、国内の食と住を全部面倒見るとしましょう。

 日本に滞在するクルーとスタッフを合わせて30人(だいたいホクレアの運行は15人くらいのクルーでやってますし、これに伴走船のクルーとそれ以外の陸上のサポートスタッフが入るので、その倍と見ました)。延べ滞在日数を30日間とします。クルー1人あたりの滞在費を1日あたり宿泊費7000円、食費3000円としましょうか。合わせて1万円ね。ギリギリの額ですが。

 これだけで単純計算で900万円です。ハワイ州観光局が出すという200万円なんか一瞬で吹き飛びますね。さらに国内での移動費がかかる。15人は常にホクレアで、10人は伴走船で移動するとして、残り5人の移動費。ミニヴァンを1台、1ヶ月借りるとしましょうか。1日あたりだいたい25000円だから、75万円。ほら、もう1000万円だ。でもミニヴァンじゃ沖縄から鹿児島までは渡れないぞ。飛行機のチケット代が別途、ですね。日本人は日本語を喋るんであって英語はあまり喋らない。通訳だって必要でしょう。30日間で50万円くらいはかかりますね。

 日本国内のアゴアシ寝床提供だけでも、1000万円とかそれ以上のお話になってしまう。なんか歓迎イベントやるってんでテント設営したらそこでまたお金がかかりますな。事務連絡費。コピー代。電話代。ファックス用紙。事務所代。ちょっと油断したらたちまち2000万円ですよ。

 ね? これはもうどこが音頭を取るにしても、その音頭の下には日本全国のサポーターの力が結集しないと、どうしようもない。そういうプロジェクトです。だから、私個人の予想ですが、最初の烽火をあげるのがどこの誰であろうと、その下に集まってくる人々の顔ぶれは変わらないんじゃないかと思います。必要なのは、なるべく遠くからでも見えるような烽火を上げること。そして、集まってきた力をしっかり束ねられる指導力です。公明正大で人望のある人間が、透明度の高い組織運営をしなければ必ず空中分解してしまうでしょう。

 それでは、そういう大人物が立ち上がるまで私たちは待ち続けるしか無いのでしょうか? というかそもそも大人物って誰だ? マイロン・トンプソンやヘクター・バズビー、サー・トマス・デイヴィスのような人が出てくるのを待つ? マイロン・トンプソンは長年の社会福祉事業の実績がありましたし、1976年はアメリカ建国200周年記念で連邦政府の援助が、1980年はアリヨシ州知事のバックアップもあった。ヘクター・バズビーはマオリ社会の有力者。サー・トマス・デイヴィスはクック諸島の元大統領。そんな凄い人たちが動いていたんですねえ。それにしても日本でそんな影響力を持った人々が動くまで待っているのもどうかと思います。かといって大会社の大イベントにされてしまったら私たちはつまらない。きっとホクレアのクルーもつまらない。

 そこで私が提案したいのは、小さな組織をいくつも作ってしまうことです。一気に全てを統括する大組織を作るには、イニシアチブを取れる人が居ないし、それだけ大きな組織になると、組織そのものを運営維持するのだってエネルギーがバカにならない。さらに言えば、そういう大組織の中枢を担う人は、ある期間それに係りっきりになってしまうくらいに仕事量が増えてしまう。

 それよりは、せいぜい5人とか10人で完結した組織をいくつも作った方が良いのではないでしょうか。それくらいならだいたい若い頃にみなさんがやっていたバンドと大して変わりませんからね。並列分散処理というやつです。そして、そういう小さな組織の横の連絡だけ密にしておく。
 例えば、寄港地ごとにそこで完結した組織があり、そこにホクレアが滞在している間だけ責任を持ってお世話をする。ホクレアが次の港に向かったら、やはり今度はその港の組織が対応する。A港の組織がB港の仕事に関わる必要は無いし、全組織を統合した大組織も、特に存在する必要は無い。ただお互いの引継ぎの打ち合わせだけきちんとしておけば、結果的にそれで大きな仕事ができる。

 もう一つ私が提案したいのは、なるべくお金を動かさないという事です。どこかにドカンと大金を集めて、そのお金を使って色々なことをやるってのは、お金の管理に余計なエネルギーを食われますから、やらない方が良い。それにお金が絡むとどうしても話がドロドロしてきてしまうしね。

 でもそんな事が出来るのでしょうか?
 私は出来ると思います。
  
 何が必要なのかもう一度整理してみましょう。食べ物。寝場所。移動手段。それと場合によっては通訳。私たちが取り組むべきなのは、ホクレアのクルーが日本に滞在している間にかかるこれらの負担を軽減すること。そして私たちとホクレアのクルーが濃密に交流できる時間を準備すること。

 それだったら現物支給で良いじゃないですか。お金には人格が無い。人格が無いからどこへでも持っていって好きに使える。でも今回は、お金の持っているそういう特性は、むしろ邪魔です。あの為に貯めておいたお金がある日忽然と消え失せて別の事に使われたりして揉めるとやだからね。

 食べ物が必要? だったら自慢の郷土料理をみんなで作ってみんなで食べれば良いじゃないですか。ルアウですよルアウ。みんな持ち寄って来れば良い。ビールの50本や100本、必要になったらその場でカンパを集めれば良い。
 寝場所が必要? だったら自分の家に泊めてあげれば良い。庭先にテント張って、酔いつぶれた奴からそこに放り込んでいけば良い。明日は近所の小学校連れていくから、二日酔いするんじゃないぞ。
 移動手段? 水くさいじゃないですか。そんなの自慢のマイカー7人乗りミニヴァンで次の寄港地まで送っていってあげましょうよ。ね。何のためにミニヴァン持ってるんですか。車ん中で大いに語り合いましょう。ほら皆様右手をご覧下さい。あれが天孫降臨の高千穂の峰です。ほら左手に見えるあれが宍道湖だ。おっと前に見えてきたのは立山だ。富山湾の寒鰤は旨いんだぞ。次は冬に来いよ。

 多分、これで良いんですよ。うちの港に居る間は食い物も寝場所も面倒見よう。それだけ。それが全国繋がれば、1000万円なんて必要無い。ホクレアとスタッフの体だけ持ってきてくれたらね。おまけに、お金使うより遙かに濃密な交流が出来るじゃないですか。それに、仮にも水の半球の歴史を変えた船ですよホクレアは。支援組織が地元の自治体に話を持っていけば、まんざら悪い顔もしないでしょう。「大王のひつぎ」実験航海だって「海王」の寄港地立候補が殺到したんだから。

http://kyushu.yomiuri.co.jp/magazine/daiou/news/news050216a.htm

 とすればですよ。求められるのはまず

・港ごとに責任を持つ組織が生まれること

であり、それらを繋ぐものとして

・その組織が「どこに向かって手を挙げたら良いのか」わかるようにしておくこと
・そうやって集まってきた小組織とポリネシア航海協会の間の調整をすること

この二つを執り行う、もう一つの小組織というか連絡協議会みたいなものがあれば良い。いや、先に各地で小組織が出来ていたって良いと思います。何か事が始まったら即応する構えだけ取っておいて、まずは自分たちの港で何が準備出来るか策を練る。横の連絡はメーリングリストや掲示板で差し当たりは充分でしょう。そういう組織が3つとか4つ各地に出来れば、自然に「じゃあ代表者は集まってみますか。」って話になると思う。そうしてどんどん他の港にも動きを広げて行けば良いのでは。最終的にポリネシア航海協会に連絡したいけど英文書けないというんでしたら、私が翻訳して差し上げます。メール下さい。

 5人や10人なら、バンドメンバー集めと同じで、どうとでも出来るでしょう。それにハワイと姉妹都市や友好都市になっている所を回る予定なんだから、そういう土地ではまず準備委員会を作ってから自治体に話を持っていけば絶対反応は来ると思いますしね。

 こんな感じでボトムアップしていけば良いんじゃないかと私は考えています。これを仮にボトムアップ・モデルと呼びましょう(仮にどこか既存のお金のない組織が動くとしても、結局はこのようなモデル、つまり日本各地で同志を募る形になると思います)。

 次回は、それでは具体的に個々の港は何をしていけば良いのかを検討してみます。

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