音楽社会学者と行く街歩き(笑)

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 2年ゼミのフィールド調査実習は先月23日で終わっているはずなんですが、都市社会学系のゼミを志望している学生たちから希望が出たので急遽、神奈川県某所にて「撮影会」を実施してきました。

 いや、面白かったなあ今日は。もちろん私はただの翻訳家・音楽社会学者なんで街のことなんかな~んにもわからないド素人なんですが、まあ引率っつことで、某駅の改札前集合。改札前にある周辺図からいきなり面白いです。

「あ~、これは露骨だね。道の形見たらわかるでしょ。このラインまでは昔から陸地だったみたいだけど、この先は定規で引いたみたいな街区構造になってる。ここは明らかに埋め立て地だね。」
「ここは、丘のこのラインから上は切り土して造った街だね。このラインのすぐ下に神社があるでしょ。普通、神社までどかして宅地造成はやらないからね。」
「この羊羹型の集合住宅がドミノみたいに並ぶ設計は古いね。昭和40年代以前のやり方だね。多分ここ、住宅の仕様ももう古すぎて、老人かよほどカネが無い新婚世帯くらいしか住んでないんじゃないかな。」
「ほんじゃ歩こうか。街を調べる時は、まず図書館行って郷土資料の棚をざっとチェックするのが基本ね。それで、この土地が歴史的にどう変化してきたかを見るわけ。」
「あ~、このデザインのマンションは古いよ。1階に商店街とか集会所入れたこの設計はまさに昭和40年代っぽいけど・・・多摩川住宅とかの。どっかに定礎って石ハマってたら一発でわかるな(後で調べたら昭和47年完成でした)。これは・・・URの賃貸か。ってことは公団が造った物件だね。分譲だったら連絡先が管理組合になってるはずだからね。」

 やがて丘の上に現れたご一行さま。

「きたきたきた~! ノボリだ横断幕だマンション紛争だ! お、あっこに開発計画のお知らせが出てるぞ。車に気をつけて道渡ろう。」
「お~、すごい。10階建てがいっぱい建つんか~。あ、一個だけ前のまんまの建物をそのまま残すって書いてある。なんだろなこれ。文化財指定でも入ってるのかな(ビンゴでした)。」
「あ~、これはねえ。こんだけ緩衝で緑地帯の幅取ってたら、ちょっと反対運動は勝ち目無いね。敷地まででも30メートルくらい緑地帯あるからね~。あとは反対運動の連中のプライドを満足させる軽い譲歩をデベがやるかどうかだね。じゃ、あっち側の戸建て住宅街見てみようか。」

 道を渡ってノボリや横断幕のエリアへ。

「やっぱりね。ほら、開発エリアから直接道挟んだ反対側の1ブロックだけノボリとかやってて、他の家は殆ど見あたらないでしょ。これは戦ってる家少ないな。」
(「先生、あそことかあそこにもノボリがありますけど」)
「そういう家はだいたい(ヤバ過ぎて書けません)だよ。注意して見てごらん。」
(「あ、ほんとです」)
「あとは、この開発をきっかけにして街をどう変えていくかって発想をデベと周囲の住民が持てるかどうかだね。戦うことが目的で反対運動やる人も多いからね。特に(自粛)。」
「さて、あっちの方も面白そうだから行ってみよう。あっちは集合住宅エリアだね。」

 移動。

「あ、ここも面白いよ。ほら、地図を見てごらん。東芝にIHIに電源開発に荏原製作所にゼネラル石油。最初の三つは発電所絡みでここに社宅置いておいたんだな。東芝やIHIは発電機メーカーだしな。その間に賃貸とか分譲ってあるでしょ。これが公団だか公社だかの住宅だ。」
「そこが地図でいうとここだ。地図だと羊羹マンションなのに、もう建て替えられてピカピカのマンションだね。あっちはまだ羊羹のままだ。もう一度、地図をよく見てごらん。建て替えやったのは全部社宅だろ。」
(「ほんとだ!」)
「分譲マンションは建て替えやる時の合意形成が死ぬほど難しいからね。社宅だったら持ってる企業が物件ごとデベに売ればそれで終わりだから、こうなるの。」
(「面白い風景ですね」)
「笑ってる場合じゃないぞ。このままこの50年前のポンコツの建て替えが出来ないとどうなると思う? 引っ越し出来るお金がある家はどんどん逃げ出していく。カネが無い家だけが残り、最悪の場合はスラム化する。不法に住み着く連中なんかが現れたりするんだな。そうなると街全体の治安が悪化し、街全体の資産価値が落ちる。逃げ出せる家は逃げ出していくから、どんどん悪循環になる。そこのピカピカの新築マンションだって巻き添えを食う。」
「(こわいっすね)」
「一方で、このポンコツもどんどん潰して建て替えをやっていくと、そのうち希少価値が出てくるかもしれんよ。これだって日本住居史上の画期だからね。例えば・・・」
「(同潤会アパートですか?)」
「そう。その時、外部から変な連中が入り込んで来て反対のための反対を始めるとグチャグチャになるから、どうやってそういうのを防ぐかがポイントだろうね。」

 丘を降りて海沿いの幹線を歩きます。

「おい、この駅前商店街、殆どチェーン店が無いぞ。ってことはまあまあ商売成り立ってるってことだね。地元の人の店で。」
「なあ、ここ、駅と駅の間なのに何でシャッター街が続いてるんだ? しかも街道の山側だけに商店街があった感じだけど。この街道を広げた時にこっち側にあった店は取り壊したんかな? それにしても変だよな。どんな人が客だったんだ? 商圏は?」

 この謎は、その後、地元商店への聞き取り調査で経緯が判明。

 こんな感じでみっちり半日かけて日没まで歩き回り、街の見方や「こういう調査なら、こんな方面からこの手順で入っていく」という知識を徹底的に伝授して参りました。それが終わったら、駅前のレストランで学生たちの問題意識をじっくりと聞いて、卒論に向けた研究と勉強の方向性の入念な検討。あっと言う間に2時間半が経過しておりました。

 印象に残ったのが、西の方から来たある学生のこんな台詞。

「(将来的には)故郷の街のためになることをやりたいです。シャッター街を何とかしたいですねまずは。」

 半月前に話した時には、問題意識や目的意識はそこまで明確化していなかったですが、やはり3年次の演習を選ぶ過程で色々考えたんでしょうね。そういうことなら俺もバックアップするよってんで、春休みに某巨匠の都市設計事務所に丁稚奉公に入れるようお願いしているとこです。前にそういう話をしてあるので、多分大丈夫だと思いますけどね。