村田丸の船出

 「カピタン・アラトリステ」シリーズ6巻『東方の海賊』のあらすじをこれからしばらく紹介していきますよ。

第1章「ベルベル海岸」

 1627年5月末、アラトリステとイニゴはナポリ駐留のスペイン艦隊の新造ガレー船「ムラタ(Mulata)」に搭乗して、アルボラン島付近を航行していた。ムラタはスペイン商船の護衛の任に就いており、この航海ではバレアレス諸島経由でバレンシアまでスペイン商船を護送し、そこからカルタヘナに移動してオランへと別の商船を護送してナポリへと戻る帰途であった。

 エル・エスコリアルでのフェリペ4世暗殺未遂事件の後、アラトリステの立場は「差し引きゼロ」となった。フェリペ4世の命を救うという殊勲は上げたものの、国王の前での着帽特権以外にはこれといった恩賞も無く、グアダルメディーナ伯爵とは完全に決裂。奇跡的に命拾いしたサルダーニャの計らいでアラトリステは補吏に追われることも無くなったが、マリア・デ・カストロとは完全に関係が終わったし、相変わらず無一文の剣客でしかなかった。
 
 一方、大逆の陰謀が露見したボカネグラは強制的に病院に閉じこめられ、マラテスタの消息は杳として知れない。ルイス・デ・アルケサルは処刑こそ免れたものの、ヌエバ・エスパーニャに左遷され、アンヘリカとともに旅立っていった。唯一ツイていたのはイニゴで、ケベードが王妃のコネで、18歳になると同時に近衛隊に入隊出来るよう手配してくれたのである。とはいえ近衛隊で栄達するには家柄か手柄が必要であり、フランドルでブレダ攻城戦を経験していたとはいえ、正規の軍籍を持っていなかったイニゴは、改めて従軍することになった。

 ロペ・デ・ベガの息子の件でイニゴの腕を買っていたコントレーラスはアラトリステともどもナポリに来るようイニゴを誘い、二人は1626年、バルセロナからジェノバを経由してナポリに渡った。イニゴはついに正規の軍人としてスペイン陸軍に入隊し、アラトリステの従者からアラトリステの戦友へと立場を変えた。

 アラトリステとイニゴの乗るムラタはこの日、コルセール海賊ガリオットを捕捉してこれを制圧した。イニゴにとっては5回目の海戦だった。