さすがに31日から3日までは中断させていただきましたが(年末年始もノンストップで作業していた人がいるらしい)、「アラトリステ」4巻、私のところの工程ではいよいよクライマックスにさしかかっています。全9章構成のうち8章がもう明日には仕上がる感じですね。
さて。登場人物の顔見世と時代背景の説明だった1巻、宗教裁判と近世スペイン社会の関わりをテーマにした2巻、カトリックとプロテスタントの宗教戦争の内実を描いた3巻に続き、4巻が採り上げるのは、新大陸交易の問題です。
ヌエバ・エスパーニャと呼ばれた中南米、そしてそこからさらに太平洋を越えてフィリピン、東アジア。これら広大な地域から運ばれた財貨がカリブ海で集積され、巨大輸送船団となってアンダルシアに到着する。そこから更に財貨はヨーロッパ各地に散っていく。4巻ではこの壮大なるモノの流れの仕組み、その裏にあったカネの流れを、例によって末端で生きる人々の現実から遡って精密に描き出しています。
我らが隊長がそこにどう絡むのかは、これはもう読んでからのお楽しみ。北ヨーロッパの重苦しい天候を反映していたような3巻のトーンとは打ってかわって、スコーンと抜けるようなアンダルシアの青空の下、面白くて、やがて哀しき無頼たちの群像劇が展開されます。
ところで、こうした「モノの流れ」の問題、実はそのまま現代的なテーマでもあります。ビジネス用語では「ロジスティクス」と言うのですが、例えばある企業が何かの製品を作って売って商売するという時に、その原材料の調達から商品の出荷、そして消費者の手元に届くまで、これ全てロジスティクスなのですよ。私の知り合いでまさにこのロジスティクスのプロ(DHLの偉い人)がいらっしゃって、本も書いているので、機会があったら読んでみていただきたいのですが。
拓海広志『ビジュアルでわかる船と海運のはなし』(成山堂書店、2006)
ですから「アラトリステ」4巻はロジスティクスのお話と言えるわけです。まだイメージが沸きづらいですかね。例えばですよ。昨年大ヒットした例の映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」。あのシリーズはロジスティクスが無ければ成立しない。要するに海賊というのはロジスティクスのプロセスの中にある物資財貨を略奪するのが商売ですからね。大航海時代というやつも、旧来のロジスティクスの構造(中近東ルートでの東洋との貿易)を代替するような新しいルートの開拓のことでした。
言ってみれば大航海時代のスペイン王家というのは、現代でいうシーランドやマトソンのような巨大海運業者だったのであり、本業での儲けを赤字子会社の運営に全部突っ込んで自転車操業しているようなアンポンタンな企業だったと。そういうことが4巻を読めばよ~くわかるのです。