伏線多いよな

 最初に私が野谷文昭先生に「アラトリステ」の翻訳をやりましたよとお話したとき、野谷先生はおっしゃいました。「レベルテは若干緻密さに欠ける気もするけれど、スペイン語文学としては面白いところを発掘したね。」
 
 という野谷先生の評だったのですが、実際にやってみると結構このオヤジ、細かい芸を色々使ってくるので油断なりません。結局3巻では註の挿入が見送られた謎のイタリア人マッツァリーノとかフリオ・セサルもそうですが、もっともっと細かいところで小癪なくすぐりを入れてくるのがレベルテの旦那です。

 その好例があれですね。マドリッドの憎めない地回りヤクザ、バルトロ・カガフエゴ。1巻冒頭でさりげなく名前が出ていたのですが、それっきりのキャラかと思ったら2巻でまた登場して美味しいところを持っていく。さらにもっと先でも加賀やんはアリアを披露するチャンスがあるんですが、その時のアリアの直前で隊長と交わす会話がちゃんと2巻の会話を受けていたりする。

 まあ、ここまではなんとか普通に気がつけるんですけどね。もっともっとマイナーなネタも仕込んであるから怖い。例えばケベ爺が毎度毎度大量に並べる悪態に紛れ込んでいるちょっとしたエピソードが、別の巻の別の町での事件に(注意深く見ると)繋がっていたりします。実はこれ、私も危うく見落とすとこでした。

 「アラトリステ」、意外なことに伏線落としの恐怖と隣り合わせの本です。単訳だったら胃が痛くなりそうなくらいに。