オランダの運河

お久しぶりです。3巻の訳語について二つほどご報告。

3巻で劇中のスペイン人たちが、彼らに敵対する勢力のことをオランダ人と呼び、彼らが戦っている地のことをしばしばオランダと呼んでいるのですが、実際にはまだスペインはネーデルラント連邦共和国の独立を認めていない時期なので、何でスペイン人がオランダゆーとるのという疑問は当然出てまいります。

私にもわからんです。

例えば冒頭の

「秋の夜が明けようとしている。じめじめとしたオランダの運河には、全くうんざりさせられる。」

これの原文は

”Voto a Dios que los canales holandeses son húmedos en los amaneceres de otoño.”

なんです。原文にオランダってあるんで、さすがにここを「ネーデルラントの運河」とは訳せなかったです。

ここだけ見ると、カルタヘナ連隊が展開しているのがホラント州だからcanales holandesesなのかもしれませんが、別の場所では「イングランドとオランダの連合軍」なんて話も出てくるので、うーむ、どうなんですかね。小説の体裁として、壮年期のイニゴが過去を振り返って語るという形になっているので、語り手であるイニゴの現在においてはオランダという国が成立しているから、ということかもしれません。

そしてこちらは、今更ですが完璧な翻訳ミスを発見したのでお詫び。3巻の3章です。

「とはいえ、我らがスピノラ将軍には目をかけられていたし、マドリードには強力な人脈を持っていた。彼は宮中伯領の戦い には上級曹長として従軍し戦功を上げ、フルーリュスの戦いでドン・エンリケ・モンソンがカルバリン砲 に片足を吹き飛ばされると、その後を継いでカルタヘナ歩兵連隊の指揮官となった人物である。」

原文はこちらになりますが・・・・

“Favorecido de nuestro general Spínola, con buenos valedores en Madrid, se había hecho una reputación como sargento mayor en la campaña del Palatinado, recibiendo el tercio de Cartagena después que a Don Enrique Monzón una bala de falconete le llevara una pierna en Fleurus. “

訳文で「上級曹長」とある部分、原文ではSargento Mayorですが、これは当時のスペイン陸軍の軍制では将官の階位の一つで、Captain General、Maestro de Campoに次ぐ階級だということを最近知りました。連隊の中で3番目ですかね。

当時は近現代とは将官のランクもかなり違うので、じゃあどう訳すかと言われると相当困るのですが、上からの序列で言えば少将、指揮下にある兵力の規模で言うと中佐くらいです。近現代で言えばね。

そのまま「サージェント・マジョール」と訳すかなあ・・・。

今も「アラトリステ」シリーズを読んでくださっている方というのは、レアだとは思いますが。あ、でも人材コンサルティングのクライアントの社長さんがこないだ読んでくれて「あれ、めちゃめちゃ手間かけとるな。手間かけすぎだわ(笑)」と笑っておられました。

小説の方を一緒に訳した方々とはもう連絡も取れなくなってしまったのですが、映画の方はですね、いまだに担当の方とは飲み友達です。うちのゼミ生たちの就活の際には色々と相談にも乗って下さいましたし、去年は高校の仲間の湾岸タワマンのベランダで東京湾花火大会を見物したんですが、声優さんたちと一緒に遊びに来てくれました。

もう10年前ですか。もっと昔みたいな気がしますが。思い出深い仕事でした。

作者は早く8巻書いて下さい。