「カピタン・アラトリステ」シリーズの翻訳作業で私個人の筆が一番進むところはどこか。戦闘シーンではありません。ラブシーンでもありません(そんなシーン出てこないし)。
実はケベード先生です。
ケベード先生が悪態をついているところが一番ノリノリです。
もちろん私はケベード先生ほど喧嘩上等ではありませんが、学会発表などでは何故か「皮肉の効いた話術」で知られているようです。皮肉というか、ダメなものをはっきりダメというのも気の毒なので、遠回しに柔らかく「あれはダメですね」とご説明申し上げているだけなのですが。
なんせプロの研究者(研究者として商売をしている研究者)ではないですし、プロになる気もあまり無いので、比較的言いたいことが言えてしまう私ですが、それでも言及するのを憚られる筋というものがあります。
巨匠大家のたぐいではありません。そのたぐいの先生方はどこの馬の骨とも知れない翻訳家が何を言おうが痛くも痒くもありませんから、結構何でも言えるのです。むしろヤバいのは、プロの研究者になりたくて、でもなかなかポストが得られなくてテンパっておられる方々ですね。こういう方々は心に余裕が無いですから、ちょっかいを出すと本当にヤバいです。何をされるかわかりません。
ですから私は徹底的に避けて通っているのですが、でもたまにうっかり目に入ってしまうと、「ああ・・・」と思うわけですよ。何が「ああ・・・」なのかはもちろん秘密ですけどね。
そういう「ああ・・・」がそれなりに溜まっている時にケベード先生のシーンが来ると、正直、わくわくします。普段言いたくても言えないことをケベード先生が全部言って下さるので、スカっとします。すなわち「中身は無いけれどもレトリックだけ異常に凝った詩を作っては、作風が同じ仲間だけで褒め合っている」とか、「他人の作品をけなすばかりで一向に自分の作品を創ろうとしない」とか、あのあたり。
まあ、ケベード先生が詩人や劇作家の類を罵倒している下り、私の頭の中には具体的な学者の名前が三つ四つは浮かんでいますね。必ず。お恥ずかしい話です。