ミミ・ジョージ博士とのメールのやりとりを通じて、タウマコ島の人々と航海術の関わりが次第に私にも見えて来ました。航海術復興は単なる古代ロマンではなく、あるマイノリティが抑圧され搾取される状況から脱する為の、希望の星のようです。多分、切実さという点では、ホクレア号が誕生する以前のハワイ先住民と同じか、それ以上のものがあるんだと思います。実際に見てきたわけじゃないですけどね(マラリアが横行する相当にヤバい地域だそうです)。
ミミ・ジョージ博士からの手紙の一部を訳出掲載します。これで、何となく感じて下さい。
「タウマコの人々は、生きる手段としての航海術を失いたくないと思っています。そして彼らは航海術を保持していく決意を固めています。しかし彼らには他にも仕事があり、航海だけしていれば良いというわけにはいかないのです。
既に近代的な貨幣経済に組み込まれてしまっている彼らは、子供達の学費、学校建設の資金、学校や教会に着ていく為の衣服購入、医療費、お茶、砂糖、米といった若干の食料、またラジオや本、カメラ、太陽電池、照明器具、水道管、トイレ設備などを手に入れる為、お金を稼がなければいけません。これらのものを手に入れる為、タウマコの人々は、極めて安い賃金で危険な労働に従事せざるを得ないのです。ですから、彼らは金銭的に多少の余裕が出来た時にしか、航海カヌーに乗ったり海に出たりということが出来ません。
(中略)
また、仮に航海カヌーに乗ってタウマコの人々が別の島まで行ったとすると、彼らは次の航海の季節まで、そこからタウマコに何ヶ月もの間、戻れないということもあります。結局、次の季節まで待つか、あるいは数ヶ月に一度回ってくる政府の連絡船を使って移動し、さらにもう一度乗り換えてタウマコに戻るということになります。仮にそうしたとしても、またしばらくすると、航海カヌーを取りに行かなければいけません。さらに、この間の生活費や交通費も必要です。
(仮にタウマコの伝統航海術復興が成功して)充分に訓練を積んだクルーと航海カヌーがある程度揃えば、彼らは自立してやっていくことが出来るでしょう。ただ、あと3年程度は(支援事業を行う時間と資金が)必要なのです。最初の1年でクルーは近傍の島々との間を行き来する技能を手に入れるでしょう。次の1年で、彼らはサンタ・クルス諸島内やティコピア、もしかしたら北ヴァヌアツまでも行けるようになるかもしれません。3年目の訓練を修了すれば、フィジーやキリバスまで行けるようになると思います。このようにして、伝統的な交易ルートが回復されれば、数年のうちに、彼らはそこから、航海カヌーによる航海を通じて現金を手に入れる方法を見つけ出して行くでしょう。
こういった活動の為の資金が調達出来れば、私はそれを彼らの大酋長に提供する予定です。この大酋長が「ヴァカ・タウマコ・プロジェクト」の創設者です。私は彼を支援しているのです。私の役目は調査と外部からの支援です。(メラネシア人が主流であるソロモン諸島において、ポリネシア系である)タウマコの人々はマイノリティであり、また現状では経済的にも非常に劣位に置かれています(航海カヌーの伝統が蘇れば、その状況を脱する糸口が掴めるでしょうが)。ですから外部からの支援が必要なのです。これは社会事業かと問われれば、おそらくそうなんでしょう。外部からの資金援助がなければ、タウマコに航海カヌーの伝統を蘇らせる事業の最後のステップは実行できませんから。もちろん彼ら自身、可能な限りボランティアとしてこの事業に取り組む気持ちを持っておりますし、私自身もその点は同じです。過去13年間の我々の取り組みが、それを証明していると思います。プロジェクトは最終段階である海洋実習を目前にするところまで漕ぎつけましたが、この最後のステップが最も困難なのです。
あなたが指摘するように、我々が目指しているのは、健康で平和な生活の実現です。そして、タウマコの人々は、健康で平和な生活の実現の為に、海に出て航海カヌーの伝統を学ばなければならないのです。彼らの平和、健康、幸福はそこにかかっています。それを実現する為に必要な資金はささやかなものです。2万ドルあれば、彼らはこの四月からでも海洋実習を開始することが出来ます。さらに1万ドルあれば、私はそれを支援し、また調査し記録することが出来るのです。」