今日は、クペの伝説のもう一つのバージョンを紹介しましょう。
題して「寝取り編」
ハワイキを流れるアワ・ヌイ・ア・ランギ川Awa nui a rangiの傍に、一本の大木が生えていました。この木は根本から二股に分かれていました。この木の持ち主であった酋長のトトは、この木を使って二艘の航海カヌーを造り、二人の娘の嫁入り道具として、それぞれ一艘ずつプレゼントすることにしました。娘の一人ロンゴロンゴのカヌーを造る役をおおせつかったのは、カウイカとツリ・ウア・ヌイという二人の男でした。一方、もう一人の娘クラ・マロ・チニのカヌーを造ることになったのが、クペでした。二艘の航海カヌーは滅多に出来ないくらい素晴らしい仕上がりになり、それぞれアオテア号、マタホウルア号と名付けられました。
トトはこの二艘の航海カヌーの出来映えを歓び、アオテア号をロンゴロンゴの婚約者ツリに、マタホウルア号をクラ・マロ・チニの婚約者ホツラパに与えることにしました。
ところが、クラ・マロ・チニが愛していたのは、実はホツラパではなくクペでした。クペもそれを知っていたので、クペはホツラパを暗殺し、さらにマタホウルア号を使ってクラ・マロ・チニと駆け落ちする計画を練りました(悪い奴)。
クペはホツラパを釣りに誘い、釣りから帰る時に、カヌーの錨が根がかりしたからこれを外して来てくれとホツラパに頼みました。そしてホツラパが海に潜ると、クペは錨の綱を切り離して、さっさと島に帰ってしまいました。クペに騙されたホツラパは、海のまっただ中に置き去りにされてしまったのですが、この一部始終を見ていた海神の一人ランギ・ウル・ヒンガがホツラパに同情し、陸まで送り届けてくれました。
一方、ホツラパを置き去りにして帰ったクペは、クラ・マロ・チニと一緒にマタホウルア号に乗り込むと、さっさとハワイキから逃げ出してしまいました。マタホウルア号のウェイファインダーはレチという男で、レチは船の針路を夕陽が沈む方向に見える星に向けさせました。やがてマタホウルア号はラロ・ポウリニと呼ばれる島に到着しました。
さて、ハワイキでは、クペに追っ手を差し向けることになり、キワとカマという二人の男が送り出されました。二人はラロ・ポウリニに停泊していたマタホウルア号を発見しましたが、追っ手に気付いたクペが、二人の部下テツヒオテポとランギ・リリを生け贄として海に捧げると、テツヒオテポとランギ・リリはたちまちタニワ(ポリネシア神話に登場する竜。Taniwha)に姿を変えてマタホウルア号を導き、クペはキワとカマの追撃の手を潜り抜けることが出来ました。
さらに西へ逃げたクペは、今度は小さな無人島にたどり着き、ここをワワウ・アテア・ヌイと名付けました(これは現在のケルマディック諸島のどこかだろうと考えられています)。ワワウ・アテア・ヌイで食料と水を補給したクペは、そこからさらに西へ向かい、3日ほど航海した時、ついにアオテアロアを発見しました。
クペが上陸したのは、現在のワンガロアでした。マタホウルア号が岸辺に近づくと、海の中が光り出して、マタホウルア号をアオテアロアに迎え入れました(この海の光はテ・アウ・カナパナパと呼ばれ、現在でもこれを見たという人が絶えないそうです)。こうしてクペはアオテアロアに辿り着き、マタホウルア号で各地を探検して回りました。最後にクペはホキアンガに至り、ここからハワイキに帰ることにしました。
いよいよハワイキへの航海の準備が完了すると、クペは部下達に、アオテアロアに残りたいものは残っても良いと告げました。かなりの数の者がアオテアロアに残ることにしました。そしてアオテアロアに残ることを決めた人々は、クペが再びアオテアロアにやってくるかどうか尋ねました。クペはこれを否定しました。
しかし、帰りの航海は、アオテアロアに来る時よりも遙かに難しいことが予想されました(風が東から西に吹いているので、ホクレア号もアオテアロアからタヒチに帰るのに散々苦労しました)。そこでクペは息子の一人ツプツプ・ウェヌアを生け贄として神に捧げ、無事にハワイキに帰る事が出来たのです。