考証病

 「げんしけん」の後日談を描いた読み切り短編が掲載されているというだけの理由で「月刊アフタヌーン」2010年1月号を買ってきました。

 「げんしけん」以外は全く知らない作品ばかりだったのですが、正直、読むのが辛いレベルの作品ばかりで・・・・。まず絵の平均レベルがおそろしく低いですし、ストーリーや演出も新鮮味の感じられるものが無い。「げんしけん」の作中で、笹原くんが荻上さんの投稿先が「アフタヌーン」だと聞いて妙な顔をするというページがありましたけれども、あれは「そんなレベルの低い雑誌に投稿か」という意味だったんでしょうか。

 中でも気になったのは、細かい部分での考証のあやしさですね。例えば「水域」という作品では、おそらく20世紀初頭の日本の山村が舞台に用いられているのですが、設定として「常に雨が降り続いている」「ある世帯の父子を残して村人が全て姿を消した」とされている。そこでまず私が思ったのは「こういった山村で、それだけ雨天が続いているとしたら生業が成立しないのではないか?」ということ。山あいの村というのは平地が少ないので田畑そのものが狭く、しかも日照時間がただでさえ短い上に水が冷たいので、平野部の田畑ほどの生産力は無い。それを補うために各種の山仕事(炭焼き、狩猟、採集、林業)をするというのが一般的です。

 ですが、それだけ雨が続いていれば山林は地盤がゆるんで危険な状態になるでしょうし、作物も育たない。それに山村を維持する各種の共同作業が出来なくなりますから、残った1世帯も村を捨てるしかなくなるはず。これが完全にファンタジー調の作品ならばともかく、作中には村人が兵士として軍隊に入るようなエピソードもあるわけですから、ある程度は現実的な演出をして然るべきだと思うのです。作者は前作で非常に高い評価を受けられた方とのことですが、どうも私には、考証の甘さが目について、作品世界に入り込めませんでした。

 「ヴィンランド・サガ」という作品も大きな賞を取ったそうですが、奴隷兼傭兵の主人公が「デンマーク軍のイングランド侵攻にも参加した」と語るのに、また引っかかる。5歳ごろから傭兵をやっていた、つまり学問を全く身につけていないような11世紀初頭のバイキングの戦士が、そんな近代以降の歴史学者のような物言いをするだろうか、というのが一つ。しかも、そのコマの戦闘描写を見ると、ロングボウから射出されたとおぼしき大量の矢が降り注ぐさなかで、ケルト人風の敵部隊と主人公の部隊が白兵戦をやっている。

 なんだこりゃ?

 常識で考えて、自軍の兵士が戦っているその真上に大量の矢を射かけるわけが無いじゃないですか。弓兵が仕事をするのは、敵部隊が遠くにいる時だけです。それに、クヌートの時代にこんなカエサルと戦ったガリア人みたいなケルト兵がどこに居たのか? しかも、この時代にはまだロングボウの弓兵隊は存在していなかったはず。

 う~む。

 「BUTTER!!!」という作品は私立の高校における社交ダンス部を舞台にした話なのですが、他人が偽造した入部届によって入部させられる生徒が入部を拒否したところ、「本校の部活動は最低1学期の在籍が無ければ退部は認められません」との理由で拒否されている。この生徒は私文書偽造行使の被害者ですから、ここで無理矢理入部させてしまったら、いくら私学でもヤバいですよ。保護者が弁護士に相談したら勝ち目ゼロ。教育委員会からの指導も入るでしょうし。

 何かこう、全体にアマチュア感が濃厚な作品ばかりでして。これで680円は正直、かなり割高ですね。もう買わない、というか読まないだろうなあ。