映画版感想など

 全体としての感想ですが、さすがにアラトリステの後半生22年間を2時間15分で駆け抜けるという作りなだけに、「このシーンはもう少しじっくりと描写した方が味わいが出たよなあ」というシーンもそこそこありますね。きっと編集で落としたフッテージが沢山あるんでしょうし、そのうち3時間バージョンを作って欲しいですね。ですが、では2時間15分バージョンは駄目な映画かと言えば、そういうわけでもありません。原作者のコメントの意味が私にも良く解ります。

「完璧な映画ではないが、自分は感動した。」

 やはりね、アラトリステ役の俳優さんが凄く良い演技をしているんですよ。彼が出た映画は「指輪物語」と「クリムゾン・タイド」しか観たことがありませんけれども、個人的には「アラトリステ」の演技が一番印象に残りますね。原作のアラトリステの醸し出す厭世的な雰囲気を原作以上に表現している。というか原作のアラトリステよりも不幸な人に見える。得体の知れないCDを作って笑いを取っている人とはとても思えません。

 他の役者さんでは、ケベード役の人とマラテスタ師匠役の人が良いですね。コポンス兄ィ役の人も良い。アンヘリカ役の人はサービスシーンもあって嬉しいですけれども、そもそも原作のような悪の権化とは全く別のキャラですからねえ。グアダルメディーナ伯爵やフェリペ4世陛下はまあこんなとこかなと。

 原作をお読みになられた方なら、観て損は無いですよ。とにかく原作の雰囲気は100%かそれ以上のレベルで映像化されてますからね。これを観てしまうと、少なくとも隊長と師匠と兄貴と爺に関してはビジュアルイメージが固定されてしまうでしょう。それくらい、この4人のキャラ作りと演技は素晴らしいです。加えて、各種戦闘シーンの情景も「こういうものだったんだ」と納得出来ます。レイピアとマンゴーシュのコンビネーション、火縄銃やマスケット銃やピストルの使われ方、パイク兵と竜騎兵のぶつかり合いなどなど。

 原作をまだ読んでおられない方については、ハリウッド映画のような解りやすい映画しか受け付けないという方には厳しいかと思いますが(だってハリウッド映画って、早送りとか30秒スキップ連打でも内容わかるじゃないですか)、綺麗な絵づくりのヨーロッパ映画で17世紀スペインの雰囲気を存分に味わいたいとか、薄汚れた中年男が辛そうな顔をしているのがたまらないとか、そういうニーズはまずまず満たされると思います。アラトリステが施療院にマリア・デ・カストロを訪ねていくところとか、ロクロワでスペイン兵が次々に斃れていくところなんかは、さすがにグッとくるものがありますしね。ちなみに3巻の名脇役のブラガド中隊長はブレダの塹壕戦シーンだけでなく、ロクロワでも登場して美味しいところを持って行きます。