7/25付の朝日新聞に、ホクレアを取り上げた記事が掲載されました。
ナイノア氏のご先祖さまが学習院への留学経験を持っていたというのは初耳でした。やはり地アタマの良い家系だったんでしょうね。お父様の故マイロン氏も文献から想像する限り知的な人物だったようですし、ナイノア氏自身、高校のころに「知能テスト」でハワイ州トップの成績を取っていたといいますからね。そんな知的潜在能力を持ちつつも、研究者やビジネスマンではなく実践家・社会活動家の道を選んだという所が、彼の特異なところだと思います。
さて、今回の記事ではナイノア氏は日本航海の目的を次のように語っておられます。
「日系移民はハワイに大きな影響を与えた。自分たちのルーツを知る旅にしたい」
彼個人のカワノ・ヨシオ氏へのトリビュートということは以前から言っておられましたが、やはりこのコンセプトを敷衍して航海を構築してくるようですね。いささかマニアックな寄港地の選定には、当然ながらハワイの日系人コミュニティが関わっていることでしょう。
それでは、日本の私たちは彼らをどう迎えれば良いのか? やはり大事なのは郷土の歴史を知ることだと思います。より具体的に言えば、移民の歴史。どんな人々が、何故、どのような文化を持って、いつごろハワイに向かったのか。
日系移民がハワイに与えた影響をざっと学ぼうと思ったら、ビショップ博物館に行けば良いんです。あそこには日本のどこよりも詳しい展示解説がある。しかしあれは、移民を送り出した土地ごとの違いを沖縄県とそれ以外という形でしか分類していない。例えば漁業技術にしたって串本系と周防大島系と沖縄系では違うんでしょうが、そういうこともあそこではわからん。
ですから、それは日本で彼らを迎える私たちの仕事になります。少なくとも寄港地とされている土地の方は、ホクレアが来たら彼らにきちんと自分の土地の移民史を語れなければいかん。もちろん日本語で。通訳や翻訳は専門家に任せた方が良いでしょう。なんだったら翻訳は私がやって差し上げますよ(仕事としてね)。
これで少し気になるのは、日本ハワイ移民資料館を抱える山口県周防大島町の反応が鈍いという噂。せっかくホクレアが来る、来たいと言っているのに、その重大さに気づけていない自治体があるとしたら、残念なことです。まあ、これについては私個人も多少はホクレアを応援出来る目途が立ちましたので(ホクレアに関するある最重要文献の翻訳作業が先日完了しました。秋には出版となります)、年末にかけて状況は良くなっていくと思います。
また、記事では荒木汰久治さんも大きく取り上げられています。実際に荒木さんがホクレアに乗れるものかどうか、絶対確実ということは無いでしょうが、航海者としての実績から考えれば文句無しであることは間違いありません。現実に荒木さんは航海カヌーを操って長距離の外洋航海を成し遂げているわけで、これは揺るぎない実績です。そしてまた、荒木さんはその航海カヌーを使っての社会活動にも取り組んでいる。
こういう荒木さんの活動を「売名行為」と片付けることは簡単ですが、実際問題、同じフリーランスの人間として思うことは、荒木さんのような生き方は決して楽な生き方ではないということです。金儲けするんならもっと簡単な道がある。これだけのエネルギーを商売だけに全て投入すれば、来るんだか来ないんだかわからないホクレアを待ちながら自分たちの航海カヌーを持って活動するよりも、よほど簡単に金儲け出来るものです。だから、やっぱりこの人は偉いですよ。個人的には、是非ともホクレアに乗って欲しい。彼が費やしてきた労苦と情熱の量を考えたら、それくらいの役得はあって良い。そう思います。