沖家室の寄り合い2

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 一行は島のお寺に向かいます。ここで法要があるのです。おっと、道ばたにおばあちゃんが二人。

「こんにちは。お寺には行かれますか?」
「今、どうしようかちゅって話してたとこ。」
「お二人ともハワイに親類はおられるんですか?」
「私はおらんのよ。」

 必ず、というわけでもないみたいですね。
 お寺はこんな島の最果てには似つかわしくない立派な建物。本堂の前には「本陣跡」とあります。というころは海路の参勤交代の大名を受け入れていたのでしょう。田畑が無くても海で儲けてそれなりの富の蓄積があったとしか判断出来ません。バカにしたもんじゃないですよ本当に。

 本堂の中に椅子を並べ、一番前にホクレアのクルーたちが座ります。ご住職(しかも周防大島町会議員で議長だそうです。まあ色々な意味でこの辺のボスですね)の挨拶があり、法要が始まりました。なんと尼さんが一人いらっしゃって、法要でも大きな声でお経を唱えています。驚いたのは、島のご老人たちが皆、大きな声でお経に唱和しておられること。あれは初体験でした。

 法要の間にもぽつぽつと島の方々がお寺にいらっしゃいます。これはどう見ても法事です。法事。島の誰かのおやじさんの20回忌とかそんなノリ。法事があるなら顔は出しておこうかね、という雰囲気ですね。良いんですよ。ホクレアが置いてあるところから車で山を越えて30キロ。そんなところのおばあちゃんたちに、航海術だとかポリネシア人のルーツだとかハワイ先住民の英雄だとか関係無いです。島に縁のある人が久しぶりに島に戻ってきて、親爺さんの供養をするっちゅうから、一緒にお経唱えてあげなあかんね。

そういうもんでしょ。それがこの島のやり方でしょ。

 お寺は浄土宗なので、ご本尊は阿弥陀如来です。阿弥陀如来というのは西方浄土、つまり沈む夕陽の方向にある極楽浄土の管理者です。「西の太陽を目指す旅」にはまことに相応しい仏様と言えます。本尊の前にはナイノア氏が持参した二つの石。一つはカワノ・ヨシオ氏の家の下から、もう一つはカワノ・ヨシオ氏が植えた木の根本の洞から持ってきたものです。ちなみにカワノ・ヨシオ氏の家からナイノアさんが持参したのは、煮炊きに使う石でした。石を熱してその熱で調理するわけです。それから前夜、ホクレアのクルーから周防大島町に贈られたパネル。モンテ・コスタさんが撮られた写真で、(おそらく)沈む夕陽を背にクラブクロウ・セイルを揚げているホクレアのシルエット。

 お焼香を済ませて法要は終わりました。ナイノアさんからも挨拶があります。自分はカワノ・ヨシオ氏からは4人目の息子として「四郎」と呼ばれていた。カワノ・ヨシオ氏の3人の息子さんたちはまだこの島に来たことは無いだろうから、自分がカワノ・ヨシオ氏の息子としては最初の訪問になる。これがカワノ家と沖家室島の繋がりを再び結び治す第一歩となればと思う。そのような内容でした。奥様が近所の島にルーツを持つ方だということもあって、ナイノア氏はこの海域の島々に相当に深い思いを抱かれたようです。

 余談ですが、この日の午前中に訪問したハワイ移民資料館では実際に移民資料の中の「河野義男、山口」という記述を目にされて、感動しておられたとか。第二の故郷という言葉も出たそうですよ。

 かくしてナイノア氏の義理のお父様の供養も無事に終わり、場所を移して宴会です。何か一軒、他の家とは風情が違う建物がありますね。

「これね、昔よそで大儲けした人が島に帰ってきて建てた別荘よ。」
「今、その人はどこに居るんですか?」
「中国行っちゃったよ。」
「中国って中国地方のことじゃないですよね?」
「あの、上海とかある、あの中国。中国に工場建てて、そっち行っちゃったのよ。」
「それでこの建物は?」
「管理も出来んし、持っとったら税金とかも払わなならんで、まあ自治会に寄付いう形やね。ところであんた、良い自転車乗っとるね。」
「おとうさんのも中々ですよ。」
「これね、アメリカ製。サドルはお宅のと同じイタリー製だけどね。」

 ラレーという名の通ったメーカーのMTBなんです。かなり古いもので、今は珍しいクロモリ鋼のフレーム。サスペンションは付いていません。

「ずいぶん洒落たもの乗ってますね。どこかで買ってきたんですか?」
「いやいや、島で買ったもんよ。」
「ずっと島におられたんですか?」
「僕は朝鮮生まれなの。ソウル。で、親がこの島の者だからこの島に来たのね。」
「漁はされるんですか?」
「僕は漁はしない。」

 沖家室の、というか周防大島の人は昔からどこにでも出稼ぎに行ったといいますから、この方のご両親も朝鮮半島に渡っておられたのでしょう。なんだかどんどん、この周防大島・沖家室島という空間の開放性が腑に落ちて来ます。

さて、入ってみると、洒落た作りの坪庭があり、小さいけれども高そうな仏壇があり、きっと創業社長の写真なんだと思いますが、そういうものも飾られていて、たしかに別荘ですね。海を見渡す座敷には宴席の用意が調っています。