そうだ、書き忘れていた。大島商船高専の桟橋では我らが同胞の英雄二人、内野加奈子さんと荒木汰久治さんにもお会いしました(用事があったんです)。お二人とも何と申しましょうか、内面から湧き出る生命力の太さが違うなという印象。この人、ただもんじゃねーよってのが一瞬で解る。それでお二人ともまだ30歳前後でしょ。私より年下なんですよね。いや、心強いです。こんな連中が日本にも居るんやで。この先、どんな仕事をされるのか、本当に楽しみですよ。
それと荒木さんは大人気ですねやはり。記念撮影に列出来てましたもん。私も握手しましたけど、航海カヌー乗りはみんな同じ手ですね。掌は荒れていて、手の作りは厚ぼったくて、もちろん握力は強い。他のクルーもみんなそう。ナイノア氏もそう。
さてさて。私は愛車にまたがって大島大橋へ。色々うろうろした結果、海際まで降りられる場所があってそこも魅力的なのですが、結構カメラマンが沢山張ってます。一方、大島大橋の上には誰もいません。長い長い橋であるのと、車は途中で止められないのとで、これはもう自転車を足にしている私ならではのスポットです。と、なんとカマ・ヘレらしき船が橋に近づいているではないですか。やばい。全速力で橋の真ん中に向かいます。サイクルコンピュータはペダリング回転数110rpmを示しています。
大島大橋は結構沢山の橋脚があるのですが、船団はそのほぼ中央を目指しています。私が橋の真ん中にたどり着いた時にはもうカマ・ヘレは橋の下を通過していました。私はカマ・ヘレの航跡を参考に位置決めをします。カマ・ヘレはケツがキュートですね実物を見ると。おそらくあの船には西村一広さんや内田正洋さんも乗っておられるはず(内田さんは祝島で櫂伝馬船を漕ぐはずが、カマ・ヘレでの到着となってしまったのだとか)。
続いてヒロシです。ヒロシが橋の下を通過。緑色の曳航索が続き、水面に2本マストの影が現れます。来ました。ホクレアです。アンクル・マカの吹き鳴らすホラ貝の音が響き渡ります(あれ、凄い遠くまで聞こえるんですよ本当に)。かっちょええわあ!!! まさに女王様のお通りという雰囲気。真上から何枚か写真を。デッキ上のクルーが手を振っています。この辺の水は相当に綺麗で、もちろん南の海のように澄んでいるわけではないですが(あれは栄養が少ないから澄んでいるんです)、いかにも美味しい魚が沢山採れそうな海という色調です。わかるかなあ。透明感のある深いエメラルド色。
そのエメラルドの海、数多くの小島が浮かぶ美しい瀬戸内海をホクレアが行きます。いやっほ~い。どうよ、ホクレアが周防大島に来ちゃったのよ。ごめんなさいね、あの風景は今のところ私ともう一人のカメラマン(ひいこら言って走って来られました)の独占物です。
さて。次は椋野漁港でホクレア入港です。間に合うのか? ホクレアは既にかなり先に行っていますが、なんのなんの、この時の為に私は日々多摩川サイクリングロードで鍛錬してきたのだよ。自転車に飛び乗った私は全速力で飛ばします。下り坂では制限速度の50キロぎりぎりまで出して爆走。椋野漁港までは10キロ弱。流石に上りではスローダウンしますが、それでも私は何とかホクレアに先着して椋野漁港に走り込みました(後から「自転車で走ってたの見ましたよ」と笑われた)。
自転車を置いてホクレアの様子を伺います。港はもの凄い人出です。完全に村祭り会場。盆踊りのヤグラが無いのが不思議なくらいです。沖にはホクレアとカマ・ヘレ(とヒロシ)。皆さん、岸壁にまさに鈴なりになってホクレア接岸を待ちかまえています。と・・・・・あれ? なんかどこかで見たような猫背のおっちゃんが、完全に周囲に溶け込んで雑談していますね。全く周囲は気付いていないですが、その銀髪とその日焼けした顔は・・・・・ナイノアさんじゃないですか。何やってるんですかそんなとこで。ホクレアが今まさに接岸しようとしてるのに(笑)。隣にはチャド・パイションさん並みの雄大な体格の男性。日本人のようにも見えますがハーフでしょうか。ごんぶとの手足にはハワイアンな図柄のタトゥーがわんさか。
いや、とりあえず私はナイノア氏に用事があるんだった。
「こんにちは、ナイノアさんですよね?」
「ああ、そうだよ。君は?」
「加藤晃生といいます。」
「こんにちは」(と手を差し出してくださるナイノア氏)
「実は友人に頼まれて、アイヌのコミュニティからのメッセージを持って来たんです。」
「なるほど、アイヌですか。わかりました。読みましょう。」
「よろしくお願い致します。」
(実際の会話は英語です)
これで使者としての使命は果たせました。最初は気軽に引き受けた私だったのですが、引き受けてみたらそれはとても重い・・・これは重苦しいという意味ではなく、彼らにとって本当に大切なメッセージであり、なおかつこれを信頼して託せるのはお前だけだと言われたので・・・ものでしたので、とにかくこれをホクレアのクルーに直接届けるまでは死ねないというくらいの気分でした。
ナイノアさんの隣にいらしたのは、以前からメールをやりとりしていた岩国基地の海兵隊員のショーンさんでした。
「ああ、あなたが加藤晃生! こんにちは!」
ショーンさんは友人や家族を連れてのホクレア見物です。彼はホノルル出身で、名前からしておそらく朝鮮系の血も入っておられるのでしょうね。とにかく凄い体です。海兵隊員ってこうなのか・・・。隣にいらした海兵隊員もやはりプロレスラーみたいな体格ですからね。米軍の陸上戦力の中でも精鋭としてひときわ名高い海兵隊なわけですが・・・・こんなお兄さんたちと戦争? 私は絶対やだ。怖すぎる(とってもフレンドリーな人たちですけどね)。戦争はあかん。やるもんじゃない。しみじみ思いましたよ。
そうこうしていると、周防大島町の職員の方がやってきて私に話しかけます。
「あの・・・・あれ、ナイノアさんですよね?」
「そうですね。」
「ホクレア号がもう着くんであちらの方に来ていただきたいんですが。」
「言えば来てくれますよ。」
「あの・・・通訳の方ですか?」
「え? 私ですか? 私は通訳じゃなくて翻訳です。」
「ええと・・・英語しゃべれる者が居なくて・・・あちらに来ていただけるよう言っていただけますか?」
そういうことですか。わかりました。そんなわけでショーンさんたちに捕まりっぱなしのナイノアさんを引っ張って埠頭へ向かいます。ナイノアさんは苦笑いしながらショーンさんに
「ごめんね~。行かなきゃいけないみたい・・・・。」
ナイノアさん、あなた一応は泣く子も黙るハワイ社会のVIPなんですから(笑)。それじゃカミさんに雀荘から連れ戻される気の弱いおっちゃんと見分けがつかないっすよ。
ナイノアさんを埠頭の先端(マスコミと黒塗りの車で乗り付けた偉い人以外は立ち入り不可)に送り出して人混みに戻る私です。
さて、これで役者が揃いました。では「ホクレア・アイハア」の披露へと・・・・移らないですね。何でしょうかね。クルーが集まって誰かの話を聞いていますね。結構話長いですね。おっと、クルーが環になって手を繋ぎましたよ。お祈りでしょうか。レグを終える際の祈りなのか・・・あるいはナイノア氏を交えて故カパフレフア船長の冥福を祈るのでしょうか。よく判りませんが、マスコミが環の中にビデオカメラなんか置いてますから、きっとレグ終了の祈りなんでしょうね。よもや黙祷の環の中に入ってビデオを回すなんて真似は出来ないでしょう。
今度は環になっての祈りが結構続きます。岸壁から眺めている群衆は「ありゃ何やってんだ?」「踊りでもやるのか?」「あんなとこで踊ったら海に墜ちるじゃろ。」なんて話してます。ちなみにホクレアの接岸からここまでで10分は経過してます。まあでも朝から右往左往する周防大島町の職員さんたちを見てますから、文句も言えません。こんなイベントのノウハウはもともと日本には無いわけでしてね(特に現場監督役みたいなE氏は本当にご苦労さまって感じでした)。
さて、祈りも終わり、いよいよ「ホクレア・アイハア」です。新門司からは20人くらい乗って来ましたから、ナイノア氏も混じってのこれは大迫力。港も一気に盛り上がります。そして埠頭から餅投げ会場まで人垣に迎えられてのクルー上陸。最後に上がって来られたのはチャド・ババヤーン船長でした(握手してもらっちゃったよ~)。
(もう少し続く)