中庭ってどこだ?

 ふと気になったのですが、2巻中盤でイニゴくんが拉致られたトレドの地下牢って、どこにあるんでしょうかね。

 作中の描写によれば、彼はトレドのどこかの施設の中庭で馬車から降ろされ、そのまま地下牢にブチ込まれたとあります。じゃあ、その施設ってどこにあるのか?

 念のため、トレドの地図を眺めてみました。

 トレドって狭い狭い町でして、旧市街の面積は1平方キロメートルあるかないかくらいなんです。タホ川が周囲を巻いて流れる屈曲部に築かれた城市ですからね。埼玉県日高市の高麗川巾着田と大して変わらない形と広さ。


 町の歴史としても、16世紀半ばにフェリペ2世がこの町からマドリッドに遷都して以降は、20世紀のスペイン内戦を除いてほとんど時の流れから取り残されているようなもんですからね。17世紀に存在して21世紀には存在しない「ごっつい建物」というのは無い。

 では、彼はどこに居たのか?

 トレドの象徴、カテドラル(大聖堂)でしょうか?
 たしかにここはカトリック教会の牙城だし、中庭もある。

 しかしこの中庭は平面図を見ると、馬車が入れるような構造になっていない。本当にただの四角い中庭です。同様の理由でカテドラルの次に大きなサン・ファン・デ・ロス・レジェス教会も消えた。

 あるいはアルカザル(城塞)なのでしょうか?
 ここはフェリペ2世が遷都するまではスペイン王家の居城でしたが、フェリペ2世が出ていった後は士官学校になっていました。それに構造として中庭というものが無い。庭ならでっかいのがありますけども。

 サンタ・クルス病院というのもある。これはトレドの大司教が企画して、イサベル女王の時代に完成した病院です。病院ですよ。そんなとこを異端審問プレイの会場にしますかねえ・・・?

 こうやって考えていくと、次のような結論を出さざるを得ません。

「イニゴくんが拉致られていたのは、教会や宮殿や監獄の中ではなく、ごくありふれた屋敷の地下だった。」

 つまり、作中で異端審問所が使っていたのは、バスチーユ牢獄や巣鴨プリズンや伝馬町牢屋敷のような専用設計の監獄でもなければ、巨大な城塞や大聖堂の地下のイケナイ空間でもなく、ただのお屋敷だったのではないかってことですね。いやしかし、この町はローマ時代からの地層が積み重なってるから、単純に敷地の地下を掘ったら確実に中世以前の遺構が出てきてしまう。となると、イニゴくんがネズミとともに何日も過ごした地下牢というのは、やはり中世以前の遺構の流用だったのだろうなあ、となるのであります。

(写真は故・清水理恵さんによるもの)