ピレネーを挟んで

 作者レベルテの旦那がデュマ大好きなことは、「カピタン・アラトリステ」シリーズの1巻で、『三銃士』の劇中の事件を史実としてイニゴに語らせていることからも明らかです。

 それじゃあ、「三銃士」と「カピタン・アラトリステ」、時代はどんな関係になっているかご存じですか?

 ちょっと確認してみましょう。まず、「三銃士」で若き日のダルタニャンがガスコーニュからパリに出てきて銃士隊に入ったのはいつ頃なのか?

 「三銃士」の前半のお話のあらすじはこうです。「ルイ13世の王妃アンヌはイングランドの大貴族バッキンガム公爵ジョルジュ・ド・ヴィリエと密かに恋仲であった。これを宰相リシュリュー枢機卿が知り、王妃の不倫を暴こうとするが、三銃士とダルタニャンの活躍でこの陰謀は阻まれる。」

 あー、「ジョルジュ・ド・ヴィリエ」というのは「ジョージ・ヴィリヤーズ」のフランス語読みです。なんかそんな感じの人、「アラトリステ」にも出てましたね。たしか作中で爵位が一つ上がって公爵になったような・・・。

 で、後半のあらすじはこう。「リシュリュー枢機卿のスパイだったミレディはラ・ロシェル攻防戦のさなか、イングランドに渡ってバッキンガム公爵暗殺に成功するが、フランスに戻ったところで三銃士とダルタニャンに捕らえられ、処刑される。」

 ということで「三銃士」の物語が展開していたのは1627年前後。バッキンガム公爵が死んだのは1628年ですから、若き日のダルタニャンの物語が終わったのは1628年で確定です。つまり「アラトリステ」1巻の4-5年後ですね。3巻でアラトリステとイニゴはフランドルの地に向かってブレダ攻城戦に参加していますが、これは1625年。ダルタニャンがまだガスコーニュで剣の練習に明け暮れていた頃です。

 ちなみに将来的にカピタンやイニゴくんと銃士隊の面々は絡むのか? 絡んでもおかしくはないですねえ。だって「アラトリステ」シリーズは「三銃士」シリーズへのオマージュであり、同じ作品世界を共有しているんですから。「三銃士」へのオマージュといえば、佐藤賢一さんの名作『二人のガスコン』が思い出されるのですが、レベルテの旦那にも是非、直接の絡みをお願いしたいとこです。

 なお、史実ではスペインとフランスは1635年から戦争状態に入り、1643年のロクロワの戦いでスペインがフランスに決定的な敗北を喫します。