ナイノア師匠の航法講座その1

 ナイノア師匠が航法についてレクチャーしている動画も二つ公開されています。1本目は7分弱のもので、何故ホクレアの出航を遅らせているかを解説しています。

 とりあえず印象的なのは、この期に及んで・・・・じゃなくて、今でもなお、ナイノア会長が航法術について解説する際にはしきりに「マウによれば」という台詞を使うこと。この動画では次のように会長は話してます。

「マウが言うところのクリーン・ウィンズが吹いていると吹いていないでは、航法の難易度は晴天時でも倍も違う。クリーン・ウィンズというのは、北西からのうねり*を発生させている風がそのまま吹いてきている状態のことだ。
 クリーン・ウィンズ状態かどうかで、うねりの認知の難易度が違ってくるんだ。これが完全な曇天ともなれば、晴天のクリーン・ウィンズ状態の1000倍も航法は難しくなる。私もそういった状態を経験したことがある。その時、私がどうしたと思う? 帆をたたんでクルーには2日ほど寝て過ごしてもらったよ。」

 「我々の航法の基本は単純だ。だから難しいし、だからこそ奥が深いんだが、突き詰めていえば『どこへ向かうのか』『どれだけの速度で航行してきたか』『どの方向にどれだけの間走ったか』の三つを記憶しておけば良いだけだ。じゃあ、それをどうやって知るのか? そう、自然環境の観察だ。だから我々(航法担当者)は寝てはいけないんだ。もしも寝てしまったら、寝ている間に何か間違いがあったとしても、それを把握出来ない。」

 「ブルース(ブランケンフェルド/往路の船長)は昼間の間は、おそらく1日に3000回くらいは周囲の観測をして、200回以上は指示を出すだろうね。進路を右に修正するか、左に修正するか、帆をたたむか。これは要するに、日の出と日の入りの瞬間にホクレアがどこに居るかという問題なんだ。
 そうだな、明日の朝の日の出と同時にホクレアが出航するとしよう。出航したら5ノットで真っ直ぐ南に向かう。日の入りの時にホクレアはどこに居る? そう、ホノルルの真南、36海里だ。君たちはエタック**を使って(と言っているように聞こえるんですが、ハワイでもエタックと言うんですかね?)コースを維持する。その為の3000回の観測と何百回もの操船だ。」

 「じゃあ、敢えて我々がわざわざ悪い条件の中で出航するとしたら、それは何故だと思う? そうだ、飛行機の予定やクルーの予定があるからだ。それが21世紀の我々を取り巻く現実だ。だが、私の推測では、貿易風に逆らって東に向かった我々の祖先は、そのようなことはしなかった。目指す島は小さい。だから、最高の状態でなければ船出しなかったと思う。しかし我々にそれは不可能だ。ここが難しいところだが、何とか解決していかなければいけないのも事実だ。」

 何となく思ったんですが、会長はパルミラ航海について話しているようで、実は世界一周航海をやる際にホクレアが直面するであろう課題について話しているのではないでしょうか。

*この辺について詳しく知りたい方はウィル・クセルク『星の航海術をもとめて』をお読みになってください。
**ミクロネシアの航法術で使う概念