パシフィコ横浜の前ではアヴァの儀式が続いていますけれども、私は周辺を歩いてみることにしました。儀式をしている場所のすぐ近くには、おそらくは王立カメハメハ騎士団の団員と思われる方々も何人かおられます。
ぷかり桟橋の方にテラスを降りてみると、マイク・テイラー船長の奥様がお話をしておられました。おそらく他のクルーのご家族かと思われます。私は奥様にご挨拶して、少しお話を聞かせていただくことにしました。
「こんにちは。マイク・テイラー船長の奥様でいらっしゃいますか?」
「ええ。あなたは?」
「実は昨日、船長御夫妻のお写真をお撮りした者です。こちらなんですが(デジカメのディスプレイを見せる)。」
「あら! 素敵な写真ね。」
「ハワイにお戻りになるまでに、ご主人にこのデータをお渡ししますよ。」
「ありがとう。」
「6ヶ月もご主人が留守にしておられたそうで・・・。」
「マイクは6ヶ月って言うけど、実は5ヶ月なのよ(笑)。だってそうじゃない? 1月に出て2月、3月、4月、5月、6月・・・。」
「本当だ。5ヶ月ですね。」
「でしょ(笑)。」
「それにしてもあの悲惨な乗り心地のカマ・ヘレですからね。拷問だよっておっしゃってましたよ。」
「グラグラ揺れるんですってね。でもあの人はあの船でも全く酔わないのよ。彼はあんな風に言っているけれど、本当は航海が大好きなの。」
「私は10分持ちませんでした。」
「(笑)」
「ところでマイク船長は普段は何の仕事をしておられるのですか?」
「彼はもう引退したの。以前は陸軍に居たのよ。」
「え? そうなんですか?」
「今はあんな好々爺だけど、除隊するまではこんな体をしたタフガイだったの。」
「想像出来ませんね。」
「(伏せ字)や(伏せ字)にも駐屯していたのよ。」
「日本には軍隊が無いですから、軍人さんというものが私たちにはイメージしづらいんですよ。」
「でも日本にも自衛・・・軍でしたっけ? あるのよね?」
「Japan Self Defence Forceですね。」
「そうそう。」
「たしかにあれは事実上は軍隊なんですが、私たち日本国民はなかなかそれを受け入れられないのです。ホクレアにしたところでそうですよ。あの船にはご主人のように軍関係者も関わっておられる。ですが日本では平和の使者という平板なイメージで受け入れられています。たしかに平和は極めて重要です。ですが、そこに至るまでに軍という存在は避けて通るわけにはいかない。現にいまそこに軍というものは存在しているのですから。」
「…私の父は軍医だったの。彼の父も軍人だったわ。」
「軍人一家だ。やはりお車には”Support Our Troops”ステッカーを貼っておられるのですか?」
「もちろんよ。」
マイク・テイラー船長が元軍人だったというのは予想外でした。もしかしたら岩国駐屯の海兵隊員たちがまずマイク・テイラー船長に相談したのも、軍関係者同士の親近感があったのかもしれませんね。
それにしても、片やポマイさん(だと思うのですが)のように「軍は大嫌い」とおっしゃる方や、軍が破壊したカホオラヴェ島を復興させるために生涯を捧げておられるマカナニさんのようなクルーもおり、一方で伴走船の船長として5ヶ月もの間洋上で過ごした、掛け値無しの勲一等の人物は元軍人さん。ショーンさんやリベラさんのように、現役の軍関係者でもホクレアを愛してこれを応援している方々もおられる。単純ではありません。私自身もまだ良く消化出来ていません。
ですけれども、そういう事実があることは受け入れるしかない。ホクレアとはそういうプロジェクトなんです。そして私は、ホクレアが軍人さんや元軍人さんたちをも包含するプロジェクトであることを、高く評価します。それについてはまだ理解しきれていないけれども、そうでないよりは遙かにマシだという直感があります。
そうそう、マイク・テイラー船長とはこんな会話(にある程度似たやりとり)がありました。
「船長、私たちの国はここ数年、あなたの国の悪い部分を模倣した政治家が激増しています。ネオリベラリズムです。それが私たちの国を二つに引き裂いているのです。富める一部の者と、その恩恵に与れない大部分の者たちです。私は失礼ながらあなたの国の現在の大統領閣下を低く評価しております。」
「ブッシュか? あれは駄目だ。彼の父親はまあまあだった。偉大な大統領では無かったが、最悪でも無かった。」
「船長、私も同感です。彼の父親は限度というものを知っていました。」
「だが息子は違う。あれは最低だ。」
「おっしゃる通りだと思います。」