沖家室の寄り合い(その3)

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 私は野次馬ですから、宴席には後で紛れ込むことにして、まずは邸宅の中をウロウロと歩き回ってみました。台所の脇の部屋では、おかあさんたちが忙しく宴席の準備をしています。私もウーロン茶のペットボトルを座敷に運んだりしてお手伝い。栓抜きも見当たらないぞという話になったので、持っていたヴィクトリノックスのナイフで開けて差し上げました。

「おかあさんたちは参加しないんですか?」
「私らは良いの。」
「後でいただくからね。」
「あなた、まざっちゃいなさいよ。」

もちろんそのつもりだったりします。こうしたやり方も一つの役割分担なんでしょうね。おかあさんたちも、お客さんをお迎えするということで結構楽しそうです。そうそう、おかあさんたちの一人が綺麗な箸袋を作られていて、これはクルーにお土産として渡されました。

さて。まだ私は宴席に侵入しません。仏間とその続きの間になにやらごっつい作業台が置かれているからです。これが噂の「かむろ針」作りの・・・・? 作業台の前に座っておられたご老人にお話しをうかがってみました。

「これが『かむろ針』つくりの道具ですか?」
「そうそう。これがかむろ針。今、ダイワ(精工)なんかがかむろ針っちゅうて売っとるんは、みんなこの針の真似よ。」
「沖家室で作っているからかむろ針なんですか?」
「そう。」
「材料は何を使うんですか?」
「ピアノ線よ。これ(輪になったピアノ線を見せてくれました)。これは高張力綱(鋼の中では割と高級な鋼材。自動車のボディなどでも重要な所にしか使われない)なんですわ。」
「どうやって針の形にするんですか?」
「型を使うの。木の型。型作りが難しいんですわ。ヤスリのひとコスリでもう違ってくるでね。」
「これ、写真に撮って良いですか?」
「ええよ。」
「色々と種類がありますねえ。」
「大きさと形が色々あるでね。ほら、ここに代表的な針の一覧がありますわ。」

といって、丁寧に紙箱の中にディスプレイされたかむろ針の一覧も見せていただきました。針の表面は結構粗い仕上げになっています。ヤスリの目の跡がはっきりわかります。いかにも仕事の為の道具という印象。

「カエシはこれ、ヤスリで後から付けてるんですね。」
「そう。」
「今日のあの連中の国だと、豚や犬の骨で釣り針作るんですよ。こんなでっかい奴。それを餌も付けずに海に流して引っ張ると、魚が釣れるんです。シイラが多いみたいですけど(笑)、たまにマグロなんかもかかるらしいです。おとうさんの針は小さいですね。」
「まあ、大きさはこれだけじゃないですけどね。」
「一発、これくらい大きいの作って記念に奴らにプレゼントしたらどうです?」
「それもええかもしれんね(笑)。」
「これはピアノ線を曲げただけなんですか?」
「最後に焼きを入れるの。」
「ああ、それで固くするんだ。」
「焼きが一番難しいです。針の形にするのは誰でも出来る。でも焼き入れは難しい。」

後でホクレアのクルーの前で一つ針を作って見せていましたが、焼き入れはなんとライターで焙るというものでした。しかもおとうさん、ライターを持ってきていなくて、誰かの100円ライターを借りてました(笑)。この針作りのおとうさん、松本さんというのですが、しばらく作業台の前でクルーが来るのを待っておられました。ですが、まずは宴会だということになったので、松本さんも座敷に移動。ただ、飲むと針作りに影響するということで、お酒は一口くらい口を付けられただけでした。

ちなみに地元のテレビ新広島の方は既に松本さんの熟練の技を見たことがあるそうで、「あれこそ神業ですよ。」とおっしゃってました。しかもこの松本さん、ただの針作り名人じゃなかったんです。が、それは宴席に移動してからのお話となります。

なお、私の見間違いでなければ、宿舎に帰って行くナイノア氏の小脇にはしっかりと松本さん作かむろ針のサイズ一覧箱が抱えられていました。ナイノアさんにとっては、遠い昔の師匠のそのまた師匠が使っていたであろう釣り針ですからね。特別な思いもあるでしょう。しかもインターネット通販で何でも手に入る時代とはいえ、あれだけは今を逃したら手に入るかどうかわからない逸品です。ちゃっかりゲット。余談ですがナイノアさん、周防大島周辺の海図も大島商船高専の藤井船長におねだりしてゲットしていった模様です。