あるくみるきく真似その4

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 ホクレアからポンツーンに降りた私は、そのまま反対側のカマ・ヘレに向かいます。カマ・ヘレのコクピットではクルーが2人、本を読んでいます。

「こんにちは。」
「やあ!」
「マイク・テイラー船長はいらっしゃいますか?」
「あ、居るよ。ちょっと待てよ(と言ってコクピットの下の船室に声をかける)。船長、誰か来てるけど。」
「お~、入ってもらえ。」
「ってわけだ。ほら、乗れよ。」
「え? 良いんですか? ありがとうございます!」

 やはりマニアとしてはカマ・ヘレにも萌えるんですよ。マイク・テイラー船長と記念撮影だな。コクピットに上がり込むと、船内に降りる階段があります。そして階段を下りた左側にあるデスクでノートPCをいじっているのは(航海の画像を眺めておられました)、かのダンディなヨットマン、マイク・テイラー船長ではありませんか。

「船長、初めまして。」
「やあ、君は?」
「加藤晃生と言います。皆さんがポリネシア航海協会のブログに投稿された文章を翻訳している者です。」
「おお、ご苦労さん。」
「お写真、一緒に撮らせていただいてもよろしいですか?」
「もちろん。大丈夫か? 写ったか? よし、じゃあ俺のデジカメでも撮っておくかな。おい、ちょっと来てシャッター押せや。」

 というわけで記念撮影(画像)。

「ところで船長、この船を造られた方ですが・・・」
「アレックスか。彼はもう引退して今はタヒチで悠々自適だ。」
「奥様のエルザさんもですか?」
「良く知っているな、そうだよ。二人でタヒチだ。」
「あのご夫婦のファミリー・ネームは何と発音するんですか?」
「ジャクベンコゥさ。君、詳しいねえ。」
「ホクレアの本は全部読みましたし、1冊翻訳もしたんですよ。ヤンマーのエンジンの調子はどうですか?」
「最高だよ。何年か前に、以前積んでいたエンジンが終わってね。動かす度にどこか壊れていたんだ。ヤンマーがエンジンをくれなかったらこの航海はあり得なかったね。」
「ヤンマーの大漁旗はずっとカマ・ヘレにつけておくんですか?」
「あれはこの航海が終わったら俺が貰って家に飾るつもりだ。」
「素晴らしい! ところで船内の写真を何枚か撮らせていただいてもよろしいでしょうか?」
「おう、好きなだけ撮って行きなさい。」
「ありがとうございます。」

 いかがですか。女王様に忠実に付き従う精悍無比の従者。その内部はレアですよ(画像)。

 さて、お礼を申し上げてカマ・ヘレを降ります。もうホクレアの見学乗船も締め切られましたが、ポンツーンでは残念そうにホクレアを眺めている3人のお年寄りが。

「船、乗られました?」
「いや、それがね。もうしめ切りだっていうんで乗られんのよ。」
「え~、そりゃないですよねえ。文句言って乗っちゃえば良いですよ。」
「まあしょうがないわね。あんたどこから来たん?」
「東京です。この船を見に。」
「あんたのそのカメラ、今すぐ出来るやつかね?」
「これですか? いや、そういうのじゃないんですよ。」
「せめて記念写真くらいと思ったんだがね。」
「あ、じゃあ後から送りますよ。名刺お渡しするんで、ここにハガキか何かで住所送って下さい。プリントしてお送りするんで。」
「ああ、ありがとねえ。」
「ところでやはり親戚はハワイに行かれた方、多いんですか?」
「そりゃもう。私ら大正12年生まれなんだけど、女学校なんかもう同級生はハワイ帰りばっかでね。みんな先生より英語が上手いんよ。2世やからね。」
「そんなにハワイ帰りばっかりだったんですか。」
「そらそうよ。この島は狭いでね。次男や三男は土地が無いんだわ。だからもうハワイにでも出稼ぎにいかんとしょうがないのよ。貧しい島なんだわ。向こうに行ってそのまま結婚した人も多いね。」
「ハワイ、行かれたことありますか?」
「私ら30周年の時に行ったわよ。カワイ島。」
「ああ、姉妹島30周年ですね。」
「私、カワイ島に親戚が2軒おるのよ。○○○○さんと○○○○さん。あんた知っとる?」
「いやあ、カウアイ島は私も行きましたけど、そこまでは(笑)。」

 なんとなく見えてきましたよ。やはりこの島でもハワイに親しみを感じるのは、どちらかといえばお年寄りですね。だからハワイの船というと見に来るし講演会にも行かれる。1日この島で色々な方に話を聞いて思ったのですが、クルーはもっとじっくりとこの島のあちこちを見て回って、それでお年寄りに色々な話を聞くべきでしょうねえ。それは非常に大事なことだと思いますよ。本来の趣旨を考えると。ホクレアの話をするのも大事だけれど、島の人たちの記憶に丁寧に耳を傾けるのもとても大事。

 翌日(つまり今日)は午前中にこの島の近所にあるナイノア夫人のルーツの島に行って、午後は沖家室訪問ということですが、果たして彼らはそういう時間を持てるのかな。もう少しゆっくり滞在出来ればとも思いますが・・・・。

 岸壁に戻ると、「加藤さんですね?」と声をかけられました。今度は間違いなく私あて。何でも、『星の航海術をもとめて』を読まれてとても感動されたのだそうです。ありがとうございます。クセルク先生に伝えます。

「内田さんの本も買って、一気に読んじゃいました。」
「あ、それ私はまだ読んでないんです。だって内田さんくれないんだもん(笑)。」

 と言いながらふと視線を動かすと、わずか2メートルほどの所に内田御大が居るではないですか。

「内田さんにサイン貰っちゃいましょうよ。内田さ~ん、こちらの方、内田さんの本にサイン欲しいそうです。」

 気さくにサインに応じる内田さんでした。二人並んで記念撮影も。広島市こども文化科学館のM氏もご紹介して私はトイレに行きましたが、帰ってきたらM氏が笑っています。

「加藤さん、内田さんに気付かれてなかったですよ。」

 どうやら内田さんは私が加藤だということに気付いていなかった模様です。

「だって1回しか会ってないじゃん。しょうがないよ。」
「(笑)。」
「この自転車で来たの?」
「これは担いで来ました。これで島の中回ってるんですよ。」
(しばらくオフレコの話が続く)
「いつまでここ居るの?」
「出航するまでずっとホクレアの周りうろついてる予定です。広島にも行きます。」
「おう、それが良いよ。やっぱ現場沢山見とかないとな。」
「たしかに。」

 そろそろ日が暮れます。ホクレアのクルーもバスで宿舎に戻って行きました。岸壁からポンツーンへと降りる通路は締め切られて、警備員のおじさんが立ってます。

「朝まで警備するんですか?」
「そうなんですよ~。」
「朝は何時まで?」
「8時までです。」
「途中で交代とかあるんですよね?」
「いや、一人でなんですわ(苦笑)。」
「ええ~? だって・・・・あと16時間もありますよ。」
「(苦笑)」

 もちろん警備員用の小さな小屋はありますが・・・・寝ずの番ですよ。ご苦労さまです。私は自転車で宿舎に向かいます。今夜はクルーと町の受け入れ準備関係者の交流パーティーがあるのですが、私も多少は周防大島のお手伝いをボランティアでやったので、招待していただいたのです。