あくまでも未確定ということを強調しておきますが、ホクレア号の次の航海の大まかな輪郭が固まりつつあるようです。今日、川崎で行われたワークショップで、色々とそっち方面の話も出ましたが、そこから受けた印象では、来年のホクレア日本来航の可能性は80%以上あると思います。
さて、航海のタイトル*を仮に和訳すると、
「祝福の航海:さまざまな文化の共調を目指して」
何を祝福するのかって、そりゃあ色々思いつきますよね。まずは何といってもマウ・ピアイルグ老師の貢献を褒め称え、マウ師の伝説的な生涯、そしてサタワル島とポリネシアとの縁を言祝ぐ航海です。そして、さらにその先には、近代以降の日本とハワイの数奇な縁と深い結びつきをも祝福する旅。
見せていただいた寄港予定地の選択にも、正直うなりましたよ、私。
沖縄方面から入って、有明海、玄界灘を通過。関門海峡から周防灘に入り、宇和島で「えひめ丸」を改めて弔ってから瀬戸内海を東進。紀伊水道を抜けて太平洋岸をひたすら北上。最後はアイヌの地にまで航海する。
沖縄県那覇市 鹿児島県熊毛郡屋久町(屋久島) 熊本県熊本市 長崎県長崎市
福岡県福岡市 愛媛県宇和島市 山口県大島郡周防大島町(周防大島)
広島県広島市 和歌山県和歌山市 静岡県清水市 神奈川県横浜市
東京都(東京港) 福島県いわき市 青森県八戸市 北海道函館市 北海道白老郡白老町
これを見る限り、ポリネシア航海協会の考えている事は、深いです。この航海をサーファーやパドラーみたいなハワイアン系マリンスポーツのイベントなんて小さくまとまったものにするつもりは無いと思います。というか、海とかマリンスポーツとかアスリートとかそういう「海岸の健康優良児」という文脈は核心には無いです(周辺にはもちろんあります)。そう見ます。
つまりね。この航海は、海辺に住んでいない人にも、マリンスポーツやってない人にも、関係あるってことですよ。例えばアイヌのみなさん。アイヌは先住ハワイアンと同じように、超大国の中の辺境に住む少数派です。そのアイヌには海洋系のアイヌもいるし、内陸系のアイヌもいる。でも、どちらも現代日本の中の立場はあまり変わらない。そんな時、わざわざ海っぺたのアイヌだけ選んで「やあやあこんにちは」なんて言う人たちじゃないでしょう、ポリネシア航海協会は。あるいはハワイに移民を数多く送り出した国内のコミュニティね。海系のコミュニティなんて糸満と周防大島の沖家室くらいです。じゃあ、そこだけ挨拶していくのか? そういう人たちじゃないですよねえ。
私は予想します。この航海は、海っぺたに住んでいない人も、運動大好きじゃない人も、なにがしか縁がある。なにがしか得るものがあり、あとここが非常に大事なんですが、なにがしか差し出せるものがある、そういうものになります。
これまでホクレア号が来るの来ないのという話は、シーカヤックでバリバリとエクスペディションをしちゃう内田正洋さんとか、双胴サバニで沖縄から愛知まで航海しちゃう荒木汰久治さんとか、「俺ってアスリート♪」の筋肉系雑誌『Tarzan』とか、とかく海の男だとか健康優良児だとかそんなイメージがついて回って、そっち系じゃない人はどこか気後れがあったかもしれませんが、きっとポリネシア航海協会はそんな狭いこと考えていないです。
カヌー漕いだことなかろうが、サーフィンしたことなかろうが、ハワイに行ったことなかろうが、胸を張って、みんなでホクレア号を迎えに行きましょうよ(もちろん、アウトリガー・カヌー乗りのみなさん、サーファーのみなさん、フラを学ぶみなさんは、もう大変なことになるでしょうけど)。だってホクレア号は、人と人を繋ぐ為に来るんだから。人と人の間に壁を作って内輪で固まる為に来るんじゃないんだから。ね。
余談ですが、ワークショップをして下さったブラッドさん、私が「また航海カヌーで旅をしたいですか?」と尋ねたところ、即答でした。「もちろん! ホクレアが日本に行く時には私も乗るつもりです。」
* ホクレア号の大きな航海には毎回タイトルがつきます。1985-87年のアオテアロア往還は「再発見の航海」、1995年のタヒチ・マルケサス・ハワイ間集団航海は「大洋の航海者たち」、1999年のラパ・ヌイ往還は「ポリネシア三角形の完成」でした。