『アラトリステⅢ・ブレダの太陽』発売

アラトリステⅢ・ブレダの太陽』が発売されました。

 1624年から1625年にかけて戦われたオランダ南部、ブレダの町を巡るカトリック連合軍とオランダ・イングランド連合軍の死闘を舞台に、当時のスペイン軍の末端の兵士たちの生き様を描いた、かなりハードな戦場小説です。モチーフとなっているのはベラスケスの大作「ブレダの開城」です。

 著者が物語を紡ぐ手腕は見事なもので、無邪気に戦場に憧れてオランダに足を踏み入れた若者が、壮絶な戦場を次々に経験して戦争のしょうもなさに気付いていくプロセスを、静謐なと言って良い筆致で淡々と描いていきます。そして、ベラスケスの名画には描き込まれなかったこの戦いのもう一つの側面を、鮮やかに浮かび上がらせるのです。

 特に物語の中盤、マウリッツ・ファン・ナッサウ率いるオランダ軍が大攻勢に出てからの展開は何度読み返しても唸らされますね。情景描写、人物の内面描写、そしてスペインという国の歴史に対する愛憎入り交じった批評。

 決して重苦しい本ではありません。ユーモアもあります。絶望的な戦場を舞台にしつつも、同時に兵士たちのしたたかさやペーソスをきちんと汲み上げていて、彼らがいかにして戦争という日常と折り合いをつけていたのかを、まさに見てきたような嘘に仕上げています。個人的には司馬遼太郎さんに非常に近い書き手だなと思っています。

 このシリーズの4巻まででは一番好きな巻ですね。5巻6巻はまだ読んでいませんが。