最初に2026年時点での結論を書いておきます。
「ファンタジーノベル大賞は後宮もの以外の中華ファンタジーか日本が舞台のものでないと勝てません」
- 最初の「後宮小説」以外で中華後宮ものが勝った事例なし。というか中華後宮もので面白いの書けるんならファンノベみたいな受賞しても先が無いとこじゃなくて、ラノベ系の公募賞に出しましょう。
- 2017年の再開以降、上記条件に当てはまらないものが勝った事例無し
これ見たら一目瞭然。現代日本ものが2025、2024、2020、2017。非後宮中華ものが2023と2019。近世以前の日本ものが2026、2021、2018。ザッツオール。
2026大賞 天を朱に染め ―御伽草子異聞―
2025大賞 宝蔵山誌
2024大賞 猫と罰
2023大賞 夢現の神獣 未だ醒めず※「神獣夢望伝」に改題
2021大賞 鯉姫婚姻譚
2020優秀賞 あけがたの夢※「迷子の龍は夜明けを待ちわびる」に改題
2019大賞 黒よりも濃い紫の国※「約束の果て―黒と紫の国―」に改題
2018大賞 勿怪の憑※「鬼憑き十兵衛」に改題
2017大賞 権三郎狸の話※「隣のずこずこ」に改題
あと、ここを勝っても先が無いです。なんとか2冊目までは新潮社で出せたという人たちはいるけど、まあそこまでですよね。小説で安定して稼ぐんだったらシリーズ化してIPとして売らないといけないけど、長い歴史の中でシリーズ化できたのは「しゃばけ」「僕僕先生」だけですからね。シリーズ化出来ないようなものしか受賞させないってのもあるし。
なので、今のファンノベ大賞なら勝てるけどよその公募じゃ無理ってのが書きたい、という人はともかく、面白いファンタジー小説ならちゃんとシリーズ化して売ってくれてコミカライズからアニメまで狙えるとこに出すべきです。
なお、2024年の受賞作は外国での翻訳出版がかなり多く決まったらしいので、そのルートでの売れは期待したい。最近は外国だとフェミニズム系の小説が村上春樹に替わって人気で松田青子とかファンタジー系の人もヒットしてるのだけれど、そこからどこまで広げられるか、ですかね。
架空中華ものはそもそもラノベや中華ウェブ小説が超激戦区なのですが、約束の果ても神獣もそれなりに良い小説なので、そこで戦って欲しいとは思います。
鯉姫や十兵衛みたいな日本史小説にファンタジーみをまぶしたやつはどうなんだろ。ゴーストオブツシマやゴーストオブヨーテイが大ヒットしてるから、その市場に乗れれば??? 特に大塚巳愛はラノベ的な書き方のが上手い人なんでいけるかもしれん。新潮社にそういうマーケティングをする能力があるかどうかは別の話)
あと、ファンタジーノベル大賞は時代ものの穴場という指摘もあり、私もそんな気はしています。
第二十四回は大賞がなかっただけに、どうしても見劣りがする。『かおばな憑依帖』は「江戸の町に朝顔の毒がばらまかれた。怨霊によるバイオテロ勃発。無辜の民を守るため決戦に選ばれしは、美貌のマザコン剣士、その母親の生き霊、怨霊となった吉宗の亡母、隠密、それに、象!? 誰もが誰かを守っている。命を賭けた壮絶なバトルが今、始まる」がキャッチ・コピーだが、内容は月並みな時代劇。朝日時代小説大賞とか松本清張賞とか時代劇に特化した新人賞に応募していたら、ほぼ確実に予選落ちの作品。同じ優秀賞に留まった過去の受賞作の『糞袋』(藤田雅矢)や『闇鏡』(堀川アサコ)と比べて、かなり見劣りがする。登場人物も、時代劇にやたら出てくる有名どころばかりだし、アイデア的にも南原幹雄とか過去の大物時代劇作家が書き尽くしたものの焼き直しで、オリジナリティはゼロに近い。選考委員が、ほとんど時代劇を読んでいないとしか思えない。逆に言えば、使い古されたネタでも日本ファンタジーノベル大賞は狙えるということになりそうだが、『かおばな』の欠点は賢明な読者なら即座に見抜くはずで、そういうエアー・ポケットを狙った通俗時代劇が今回、殺到することも大いに考えられるから、要注意。


審査員は今は恩田陸は外れて円城塔、畠中恵、ヤマザキマリですね。いずれにしても欧米のクラシックなファンタジー読みから見れば外部人材なので、ほんと「剣と魔法と竜」はファンタジーノベル大賞では絶対に通らない。レーエンデは通らないけど「香君」なら最終選考まで行くかもしれない。そんな感じのとこです。
だからレーエンデみたいなの書く人は時間とカネを無駄にしないためにもよそに出しましょう。


レーエンデ出した講談社だと、これか・・・。
あとは余談
21世紀に入ってからのファンノベ大賞の受賞作で多いのは「正気を疑う設定」「陰キャ」を基本にして最後は投げっぱなしにするような作品です。
もちろんそれはそれで良いのですけども、同賞の過去10年の(審査員に酷評されつつ「大甘裁定」で大賞となった『さざなみの国』から、2020年の優秀賞『迷子の龍は夜明けを待ちわびる』まで)パフォーマンスはまことに低調で、文庫化されたのが1作、作家として大成出来たのは古谷田奈月だけ。受賞作の初刷りは3000部らしいので、どう考えても黒字を出していないんです。黒字を出していないだけではなくR&Dとしても、口の悪い人が英語で表現するなら「totally f**ked」なものになってしまっている。
その理由は(私見では)ブランディングの失敗です。
同賞が始まった32年前なら、新潮社が「ファンタジー小説送ってこい」と言えば日本中のあらゆる才能が自信作を送ってきた。そして『後宮小説』『バルタザールの遍歴』『バガージマヌパナス』『鉄塔 武蔵野線』など、文句のつけようが無い名作群をこれでもかと掘り出してみせた。20世紀の間、日本ファンタジーノベル大賞のブランディングは大成功していたと思います。ライト文芸が勃興するまでは。
今は違います。今はファンタジーを書ける人で自信がある人はKADOKAWAに送るんです。電撃大賞かファンタジア大賞ね。そっちで勝てば何万部からのスタートで、ハネれば100万部単位が狙える。初刷3000で文庫化実績些少、しかも何を求められているのかイマイチわからないストライクゾーンの狭い老舗名門に回るのは、他人が読まない小説を好むマイノリティのマニアックな層が中心でしょう。それに、私見ではKADOKAWAから出ているライト文芸ファンタジーのトップティア作品群と、同時期に日本ファンタジーノベル大賞を取った作品群、どっちがイノベーティブだったか選べと言われたら、KADOKAWAと言わざるを得ない。
これとか。
|
|
ね。「キノの旅」や「ソードアートオンライン」こそ21世紀日本のファンタジーの進化の形だったわけですよ。巨大な市場とシーンを生み出したんだからね。外し狙いの作品ばかり集めて商業的にも外し続けたファンタジーノベル大賞なにやってたんでしょうか。『後宮小説』や『鉄塔 武蔵野線』、映画にまでなりましたよね? かつてはファンタジーノベル大賞って売れる賞だったんですのよ。
最近だったら英語圏ではロマンタジーがバカ売れだしね。
でも、よく見ると今の日本ファンタジーノベル大賞、最終審査は森見登美彦と恩田陸とヤマザキマリ(去年までは萩尾望都)という、大ベストセラー作家たちがやるんですよね。そこだけ見れば「森見登美彦や恩田陸っぽい売れ線のエンタメを選ぶ賞なのか?」と思うじゃないですか。ところが新潮社の中の中間審査でたぶん売れ線エンタメのポテンシャルがある作品は全部落として、便秘をこじらせたような陰キャのもやもやエンド作品ばかりを最終に上げている。コンセプトが一貫していない。だって今の森見や恩田が書くような小説がファンタジーノベル大賞から出てきてないんだもん。
キャラ小説特化のエンタメを書く名手・大塚已愛の『鬼憑き十兵衛』を大賞に選んだ年もありましたが、結局上手く売ることが出来なかったという実例もあって、とにかくもったいないです。名門ブランド、超有名作家たちの審査を兼ね備えていて結果が低調の極みですからね。
|
|
大胆なリブランディングが必要だと思いますけども。エンタメをやるならエンタメを最終に上げるべきだし、今までの延長線上で続けるなら森見・恩田・ヤマザキという審査員はコンセプトがズレているんじゃないでしょうか。
個人的には賞の出発点に戻って、イノベーティブな、斬新な、「これがファンタジー小説なのか?」とびっくりするようなエンタメを発掘する賞であって欲しいですね。市場で主流のファンタジーではラノベ棚からアニメ、映画、ゲームまで展開できるKADOKAWAに絶対勝てないんで。

